【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例  東京地裁平成18年6月30日

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
日本人女性の配偶者を有するパキスタン人男性に対し,在留特別許可を付与しないでされた入管法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決には裁量権の逸脱があって違法であるとして,同裁決及びこれに基づく退去強制令書発付処分が取り消された事例です。

<事案の概要>
本件は,被告東京入国管理局長が,平成15年11月5日付けで,入管法49条1項に基づく原告X1の異議の申出は理由がない旨の裁決を行い,続いて,被告東京入国管理局主任審査官が,同裁決に基づいて同原告に対し,平成15年11月19日付けで退去強制令書の発付処分を行ったところ,原告X1及びその妻である原告X2が,原告X1に在留特別許可を与えないでした上記裁決には裁量の逸脱があり,上記裁決及びこれに基づく上記退去強制令書の発付処分は違法であるとして,上記各処分の取消しを求めるとともに,原告X2においては,上記各処分には事実を誤認してされた違法があり,憲法上保障された婚姻の自由及び婚姻関係が憲法並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)17条の家族の保護の利益を侵害されたものであって,その精神的損害を金銭に換算すると20万円を下ることはないとして,被告国に対し,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償も求めている事案である。

<本件の争点>
①本件各処分の取消しの訴えについて原告X2が原告適格を有するか
②本件各処分が違法であるか
③原告X2が国に対する賠償請求権を有するか

<本件判決の内容>
1.争点①本件各処分の取消しの訴えについて原告X2が原告適格を有するかについて
(1)判断基準
   行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
   また,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。
(2)判断基準へのあてはめ
   入管法及びその関連法令には,外国人の配偶者である日本人の婚姻関係上の権利,利益を保護すべきであるとする趣旨を含むと解される規定は存在しない。また,本件裁決に当たって,在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣等の極めて広範な裁量にゆだねられており,容疑者が日本人の配偶者であることは主要な考慮要素となり得るものではあるが,それは飽くまでも容疑者固有の属性として,我が国での在留を特別に許可すべき事情があるか否かという観点から考慮要素になり得るにすぎないのであって,当該日本人の婚姻関係上の権利,利益を保護すべきものとする趣旨を含むと解すべき根拠はない。同法2条の2第2項所定の在留資格の一つとして「日本人の配偶者等」が定められているが,当該在留資格は,外国人の地位・身分に応じて,在留中,日本で行い得る活動と在留期間をあらかじめ定めておくために設けられた資格の分類にすぎず,当該規定をもって,本件各処分に当たり,外国人の配偶者たる日本人を保護すべきものとする根拠とみることはできない。
   外国人を自国内に受け入れるか否か,これを受け入れる場合にいかなる条件を付すかは,国際慣習法上,当該国家が自由にこれを決することができるのが原則であり,また,B規約13条1項も,外国人に対する法律に基づく退去強制手続をとることを容認していることからしても,外国人は,憲法上及びB規約上の権利を,飽くまでも入管法の定める在留制度の枠内において保障されているものであって,この点も,原告X2に原告適格を認めるべき根拠となるものではないと解される。
   以上のとおりであるから,本件各処分の取消しの訴えにおいて,原告X2が原告適格を有するとはいえない。
2.争点②本件各処分が違法であるかについて
(1)判断基準
  在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねられているのであって,法務大臣は,我が国の国益を保持し出入国管理の公正を図る観点から,当該外国人の在留状況,特別に在留を求める理由の当否のみならず,国内の政治・経済・社会の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲等の諸般の事情を総合的に勘案してその許否を判断する裁量権を与えられているというべきである。そして,在留特別許可を付与するか否かに係る法務大臣の判断が違法となるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き,又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はそれを濫用した場合に限られるものと解するのが相当である。
(2)判断基準へのあてはめ
  本件裁決時までに,原告らは,愛情・信頼に基づき安定した夫婦関係を築いていること,その継続期間も,原告X1が不法残留の事実を申告し,東京入国管理局の調査に服した後の期間が大半を占めており,被告らが主張するように「不法残留という違法状態の上に形成された関係である」などと単純化できないことが認められ,これらのことからすると,原告らの夫婦関係は,十分保護に値するものというべきである。さらに,原告X1の我が国における在留状況をみると,長期間の不法残留・不法就労を始めとした法令に抵触する行為が見受けられるものの,原告X1に在留特別許可を付与せず強制退去に付した場合には,パキスタン本国において,互いの扶助・協力の下で生活し,同居を実現に移すなど,夫婦関係を維持し,これを発展させることはおよそ困難になるものと容易に推測できることからすると,被告東京入国管理局長は,原告らの夫婦関係の実体を適正に認定・評価していれば,原告X1に対しては当然に在留特別許可を付与すべきものであったと解するのが相当である。
  したがって,原告X1に在留特別許可を付与しないでした本件裁決は,全く事実の基礎を欠いており,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであって,在留特別許可を付与するか否かについて法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入国管理局長に与えられた裁量権が極めて広範なものであることを前提としても,本件裁決は裁量権の逸脱に当たるものであって違法というべきである。
  本件裁決の通知を受けた被告東京入国管理局主任審査官は,入管法49条5項により,速やかに当該容疑者に対し,その旨を知らせるとともに同法51条の規定による退去強制令書を発付しなければならないものとされているのであるから,本件裁決が違法である以上,これに従ってされた本件退令発付処分も違法であるといわざるを得ない。
3.争点③原告X2が国に対する賠償請求権を有するか
(1)判断基準  
違法性の有無は,当該行政処分によって侵害された利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,当該行政処分の発動に対する被害者側の関与の有無,程度並びに損害の程度等の諸般の事情を総合的に判断して決すべきものであり,それが違法と判断されるためには,少なくとも,当該行政処分を行った公務員に職務上の法的義務違反があったと認められる場合であることを要するものというべきである。
 (2)判断基準へのあてはめ 
本件裁決をした被告東京入国管理局長において,公務員としての職務上の法的義務違反があったと認めることはできないというべきである。また,本件裁決の通知を受けた被告東京入国管理局主任審査官が,速やかに当該容疑者に対し退去強制令書を発付しなければならないことは,前記のとおりであるから,被告東京入国管理局長に法的義務違反が認められない以上,本件退令発付処分をしたことにつき被告東京入国管理局主任審査官にも法的義務違反が認められないというべきである。
したがって,本件各処分において,国家賠償法上の違法があるとはいえないことに帰するから,その余の点について判断するまでもなく,原告X2の損害賠償請求は理由がない。

<コメント>
本件においては,婚姻後も完全な同居が実現できないまま長期間が経過しているという事情があり,この点の評価が問題となっている。
入国管理行政の場面においては,日本人との間の婚姻関係の存在が重要な考慮要素の一つであるとみられて,実体のない婚姻関係の偽装事例が横行していることが懸念され,その見極めのために,夫婦同居の有無・その具体的態様に着目して調査を行い,それを有力な判断要素とすることには十分な理由があるといえるが,同居を困難にする客観的かつ合理的な理由(本件原告らにおいては,妹の疾患と介護の必要性という事情)が存在する場合にあっては,完全な同居をしていない事実及びそこから派生的に生ずるような事情を含めて,それが真実,夫婦関係の実体の希薄さを反映した事情といえるのかなどの点について,より慎重な評価・判断を加えていく必要があると本判決では述べられている。
そして,X2が家族の介護に当たっていたなどの事情を踏まえて,Xらは愛情・信頼に基づいた夫婦関係を築いていて,その関係は保護に値すると判断した。
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