【在留特別許可なら弁護士へ】在留特別許可に関する裁判例 名古屋高裁平成30年4月11日

皆さんこんにちは。
このコラムでは、在留特別許可に関する判例をご紹介しています。
本日ご紹介する判例は、短期滞在から不法残留(オーバーステイ)して不法就労し、永住許可を持つ外国人と約4年間内縁関係にあったフィリピン国籍の原告について、在留特別許可を付与しなかった入国管理局長の裁決及び入管主任審査官の退去強制令書発付処分が無効であると確認された事例です。

【事案の概要】
フィリピン国籍を有する外国人女性である控訴人が、入国管理局入国審査官から、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号ロ(不法残留)に該当する等の認定を受けた後、入管特別審理官から、上記認定に誤りがない旨の判定を受けたため、入管法49条1項に基づき、法務大臣に対して異議の申出をしたところ、法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長から、平成25年7月26日付けで上記異議の申出には理由がない旨の裁決を受け、引き続き、入管主任審査官から、同月29日付けで退去強制令書発付処分を受けたため、本件裁決及び本件処分の無効確認を求めるとともに、法務大臣又はその権限の委任を受けた入管局長に対して在留特別許可の義務付けを求めた事案である。
本件の経緯
控訴人は、フィリピンにおいて、フィリピン人の両親の下に、7人兄弟の第3子として出生し、フィリピン人男性との間に未婚のまま5人の子をもうけた。
控訴人は、当時日本に滞在していた妹から、日本人の夫との間にもうけた2人の子の育児を手伝ってほしいと頼まれたため、控訴人の子らを本国の実家に残したまま、母とともに来日することとなり、平成15年11月17日、在留資格を「短期滞在」、在留期間を「90日」とする上陸許可を受け、日本に上陸した。
在留期限が到来する際に、母は在留期間更新の手続をして認められたが、控訴人は手続をとらず、フィリピンに残した控訴人の子らを養うには日本に残って働くほかないと考え、在留期限である平成16年2月15日を超えて日本に不法に残留した。
控訴人は、日本での在留資格を得るため、フィリピン人の知人を介して紹介された日系ブラジル人の男性と偽装結婚をしようと考え、平成21年2月16日、外登法8条1項に基づく変更登録の申請をし、登録を受けたが、悪いことはすべきでないと思い直し、偽装結婚をすることを思いとどまった。もっとも、本件変更登録以降、外国人登録に係る変更手続を行わなかった。
控訴人には、本件変更登録及び不法在留のほかには犯罪歴等はない。
控訴人と後に内縁関係となるOは、ブラジルにおいて、ブラジル人の父と日本人の母の下に8人きょうだいの第3子として出生した。
Oは、平成5年1月22日、姉及び妹とともに稼働目的で在留資格を「短期滞在」とする上陸許可を受けて日本に上陸し、同年3月4日、日系二世であることから、「日本人の配偶者等」への在留資格変更許可を受けた。
Oはブラジル人女性(以下「前妻」という。)と婚姻し、前妻との間に2人の子をもうけたものの、夫婦関係が悪化して別居し、前妻は子らと共にブラジルに帰国した。
Oは、平成19年11月16日、永住許可を受けた。
控訴人は、平成20年4月12日頃、当時働いていた飲食店に客として来店したOと親しく付き合うようになり、平成21年9月頃から同居を始めた。同居開始後、控訴人は、家事一切を引き受け、日勤と夜勤を交互に行うなど不規則な日常を強いられるOの生活を支えていた。
Oは、前妻が離婚に応じない態度を示していたことから、控訴人に明示的に結婚を申し込むことはしなかったが、前妻との離婚が成立すれば控訴人と正式に婚姻するつもりでおり、その意思を夫婦と変わりのない日常生活を共にすることや控訴人の子らに養育費を送金することで示しており、控訴人もそのことを理解していた。
Oは、従来の仕事を続けながら、控訴人の助けを得て、身内や友人が集まれる場を設けたいと考え、平成25年6月15日に当時の自宅の1階でレストランバーを開店した。
その2週間後の同年7月1日、控訴人に対する退去強制手続が開始された。
Oは控訴人が収容された後、前妻との離婚手続を早急に進めることとし、これを入管にも伝え、ブラジル人弁護士にブラジルにおける離婚の申立てを依頼し、同年10月21日に離婚を認める判決がされた。
控訴人とOとは、仮放免後に必要書類等をそろえ、平成26年5月15日に婚姻届を提出して婚姻した。
控訴人及びOは、互いに他方を掛替えのない伴侶として認め合っており、Oは、以前からブラジルに帰国するつもりはなく日本で一生暮らし続けたいと考えていたことから、両名ともに日本での在留を強く希望しており、控訴人も自分の得意な料理関係の仕事に就くなどして収入を得て、Oと協力して出来れば自宅を購入して自活し、我が国に負担をかけず、むしろ貢献したいと考えている。
本件の主要な争点
① 本件裁決の違法性
② 本件処分の違法性

【本件判決の内容】
1.争点①本件裁決の違法性について
控訴人と内縁関係男性Oとの同居生活の実態は客観的にみて夫婦同然の状態であり、双方の意識においてもOの前婚の解消を待って正式に婚姻しようという点で共通しており、両者の関係を乱す不安な状況も生じないまま4年余りが経過していたのであるから、既に安定かつ成熟した内縁関係が成立していたと認められ、このことは、退去強制手続を開始するために控訴人らの自宅を訪れた入国警備官による自宅室内の見分や、その後に行われた控訴人及びOからの聴取を通じて、裁決行政庁も容易に認識し得たと認められる。
また、退去強制手続開始後、Oは足繁く原告に面会するとともに、前妻との離婚手続につき僅か3か月余りで離婚判決を得ているのであり、このこともOと控訴人の内縁関係が強固なものであったことを裏付けるものである。
これに対し、被控訴人は、当時、Oと前妻との離婚手続が完了しておらず、仮に両者の関係が真摯なものであったとしても、安定かつ成熟した関係であったとまではいえないと主張する。
しかし、前妻は本件裁決の約9年前にブラジルに帰国しており、この間に法的な手続を講ずれば離婚が成立する可能性がかなり高い状況にあったと認められる。そして、現にOは控訴人に対する退去強制手続が開始されてまもなく離婚手続に着手しており、早晩離婚が成立し、控訴人とOの法的な婚姻関係が成立する可能性が高い状況にあることは裁決行政庁も認識可能な状態にあったと認められる。したがって、裁決行政庁としては、早期に裁決をする場合には控訴人とOとの間に早期に法的婚姻関係が成立する見込みが高いことを前提とした判断をすべきであり、その点に不安があれば相当期間事態の推移を見守ってから判断をするとの対応をすべきであったということができ、そのいずれの方途もとらずにされた本件裁決は、当然考慮すべき事情を考慮せずされたもの、又は明らかに時の裁量を誤ったものといわざるを得ない。
また、婚姻関係は、本来、国家が定めた公法秩序とは無関係に人の本性に基づいて成立発展するものであり、我が国において内縁関係が法律上の婚姻関係に準じて取り扱われていることも、このような婚姻関係の本質に基づくものである。したがって、被控訴人のいう違法状態の上に築かれた婚姻関係は安定かつ成熟したものではないとの主張は、このような婚姻関係の本質に反するものといわざるを得ず到底採用できないし、このような見解を前提とする本件裁決は、真に保護すべき婚姻関係が何であるかについての誤った認識を前提とする点で、その判断の前提に著しい過誤があるといわざるを得ない。
被控訴人は、控訴人の配偶者であるOが日本国籍を有する者ではなく永住者にすぎないこと、控訴人の不法在留は長期にわたる上、不法在留に至る経緯に酌むべき事情がないこと、不法在留中に、本国に送金をしていたほか虚偽の外国人登録をしたこと、控訴人は本国に送還されても生活上の支障は生じないことなどを指摘する。
しかし、Oは日系2世であって、もはや本国よりも我が国との結びつきの方が格段に強く、その年齢からして本国に帰国して新たな生活を始めるのは困難であると認められるから、その婚姻関係を日本においても十分に尊重すべきである。
また、控訴人は本国への送金をするため日本に長期間にわたって不法在留し現に送金を続けていたが、その送金は未婚の母として子らの養育費に充てるための人道上やむを得ない動機に基づくものと評価すべきものであって、在留特別許可の許否に当たって消極的事由としてことさら重視すべきものではない。
また、控訴人がフィリピンに送還された場合、これまで同国に渡航したこともなく現地の言語にも通じていないOがこれに同行することは著しく困難といわざるを得ず、控訴人とOとの婚姻関係に重大な支障を及ぼすものと認められる。したがって、被控訴人の上記主張はこのような重大な不利益を看過するものであり、これと同旨の裁決行政庁の判断も、その基礎となる重要な事実を看過している点で重大な欠落があるといわざるを得ない。
以上によると、本件裁決は、控訴人とOとの間に成熟かつ安定した内縁としての夫婦関係が成立していたにもかかわらず、これを看過し、ひいては控訴人をフィリピンへ帰国させることによる控訴人やOの受ける重大な不利益に想到することもなかった一方で、控訴人の不法残留や不法就労等をことさら重大視することによってなされたものというべきであり、その判断の基礎になる事実の認識に著しい欠落があり、また、その評価においても明白に合理性を欠くことにより、その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるから、裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものであり、その違法性は重大かつ明白なものである。
よって、控訴人による本件裁決の無効確認請求には理由がある。
2.争点②本件処分の違法性について
本件処分は、入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた入管主任審査官が、入管法49条6項に基づいてしたものであるが、上記において述べたとおり、本件裁決は裁量権の範囲を逸脱濫用した重大かつ明白な違法性があって無効なものである以上、これを前提とする本件処分も無効というほかなく、その無効確認請求にも理由がある。

【コメント】
本件では、控訴人とOとの間に成熟かつ安定した内縁としての夫婦関係が成立していたにもかかわらずこれを看過し、控訴人の不法残留や不法就労等をことさら重大視することによってなされた裁決行政庁の裁決が裁量権の範囲の逸脱又は濫用にあたるかが争点になっています。
控訴人が収容された当時、確かにOは前妻との離婚手続が完了しておらず、控訴人とOとの間には法的な婚姻関係は成立していません。
しかしながら、控訴人とOとの同居生活の実態は客観的にみて夫婦同然の状態が4年余り経過しており、既に安定かつ成熟した内縁関係が成立していたと認められ、このことは裁決行政庁も容易に認識し得たと認められます。
また、Oは控訴人に対する退去強制手続が開始されてまもなく離婚手続に着手しており、早晩離婚が成立し、控訴人とOの法的な婚姻関係が成立する可能性が高い状況にあることは裁決行政庁も認識可能な状態にあったと認められます。したがって、裁決行政庁は、早期に裁決をする場合には控訴人とOとの間に早期に法的婚姻関係が成立する見込みが高いことを前提とした判断をすべきであり、その点に不安があれば相当期間事態の推移を見守ってから判断をするとの対応をすべきであったとされました。
さらに、控訴人がフィリピンに送還された場合、控訴人とOとの婚姻関係に重大な支障を及ぼすものと認められるにも関わらず、このような重大な不利益を看過し、控訴人の不法残留や不法就労等をことさら重大視することによってなされた裁決行政庁の裁決は、裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものとされました。

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