【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例 名古屋地裁平成22年12月9日

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
偽造旅券を使い日本に入国したペルー国籍の両親と,両親が日本に入国後に出生したその子に対して在留特別許可を与えず,退去強制令書を発付した処分等が,入国後の経過等に照らして違法であると判断された事例です。

<事案の概要>
本件は,ペルーの国籍を有する原告らが,法務大臣から権限の委任を受けた裁決行政庁から平成20年12月4日付けで入管法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の各裁決を受け,処分行政庁から平成21年1月6日付けで各退去強制令書発付処分を受けたのに対し,本件各裁決及び本件各処分の取消しを求めるとともに,裁決行政庁に対し,入管法50条1項に基づく在留を特別に許可すること(在留特別許可)の義務付けを求める事案である。

<本件の争点>
①在留特別許可の義務付けを求める訴えが,行訴法3条6項1号の非申請型の訴えであるか,又は同項2号の申請型の訴えであるか
②義務付けの訴えの訴訟要件を満たしているか
③本件各裁決及び本件各処分の適法性

<本件判決の内容>
1.争点①在留特別許可の義務付けを求める訴えについて
在留特別許可の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項1号所定のいわゆる非申請型の義務付けの訴えに当たるものというべきである。
2.争点②義務付けの訴えの訴訟要件を満たしているか
非申請型の義務付けの訴えについては,行政事件訴訟法37条の2第1項により,「その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り,提起することができる」ものとされている。
本件において,原告らは,本件義務付けの訴えを提起しなくとも,本件各裁決の取消訴訟の勝訴判決の後に改めてされる法務大臣等の裁決により,日本での在留資格を得るという目的を達することができるはずである。
したがって,本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の2第1項が定める「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」という義務付けの訴えの訴訟要件を欠くものとして不適法な訴えというべきである。
3.争点③本件各裁決及び本件各処分の適法性
(1)判断基準
入管法50条1項によれば,法務大臣等は,入管法49条1項の規定による異議の申出に理由があるかどうかを裁決するに当たって,当該外国人が入管法24条各号の退去強制事由に該当して異議の申出には理由がないと認める場合においても,入管法50条1項各号のいずれかに該当するときには,その者の在留を特別に許可することができるものとされている。原告父母は入管法24条1号の,原告長女は同条7号の退去強制事由に該当することは明らかであるから,本件においては,原告らに入管法50条1項4号にいう特別に在留を許可すべき事情があると認められるかどうかが問題となる。
本来我が国からの退去を強制されるべき地位にあることや,外国人の出入国管理が,国内の治安と善良な風俗の維持,保健及び衛生の確保,労働市場の安定などの我が国の国益と密接にかかわっており,これらについて総合的に分析,検討した上で,当該外国人の在留の許否を決する必要があることなどからすると,在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣等の広範な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
 したがって,裁量権の行使の結果としてされた在留特別許可を付与しないとの法務大臣等の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法と評価されるのは,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により,その判断が重要な事実の基礎を欠く場合,又は,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限られるというべきである。
 ガイドラインは,その性質上,法務大臣等の上記裁量権を一義的に拘束するものではないが,上記ガイドラインの積極要素及び消極要素として記載されている事項は,在留特別許可を付与しなかった法務大臣等の判断の司法審査においても検討の要点となるものである。
 (2)判断基準へのあてはめ
  原告長女は,スペイン語を聞いて理解することはある程度できるが,話すことはできず,家庭内でも日本語を使用していたのである。原告長女は,出生後,日本内での生活経験しかなく,その言語能力にかんがみると,国籍国であるペルーで生活することになれば,生活面及び学習面で大きな困難が生じることは明らかである。原告らに対し在留特別許可を付与するか否かを判断するに当たっては,原告長女に係る上記の事情を積極要素として特に考慮することが求められるものというべきである。
原告父母は,稼働目的で他人名義の旅券を用いて日本に不法入国した上,原告父が日系人であると偽って在留資格を不正に取得していたのであって,原告父母のかかる行為は,我が国の出入国管理行政上看過し難いものであり,原告らに対し在留特別許可を付与するか否かを判断するに当たって,消極要素となるものである。
  しかしながら,名古屋入管は,上記のような原告父母の不正行為が明らかになって,平成10年1月19日に本件各不許可処分をした後,平成18年10月20日に原告ら家族の本件出頭があるまで8年9か月の長期間にわたって,原告父母が日本に在留することを黙認していたのであり,その在留期間中に原告長女が出生し,本件各裁決時点では小学2年生になっていたことを考えると,原告父母が行った上記の違法行為を消極要素として過度に重視し,その違法行為を理由に直ちに原告らが日本で在留する道を閉ざすことは相当でないというべきである。
  原告らに対し在留特別許可を付与しないとすると,原告らと3兄弟は,家族でありながらペルーと日本で別れて生活しなければならなくなること,原告らには,原告父母の違法行為と不法就労の点を除いて,犯罪行為や素行に問題があったなど問題行動があったことをうかがわせる証拠はなく,かえって,原告父母は,在留資格がないという不自由な立場にありながら,3兄弟を高等学校に進学させるなどしており,夫婦が協力して懸命に子育てをしてきた様子がうかがわれること,その他本件に現れた一切の事情を総合勘案すると,原告らに対し在留特別許可を付与しないとした裁決行政庁の判断は,その裁量権が広範なものであることを考慮したとしても,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるといわなければならない。
  そうすると,本件各裁決は,裁決行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして,違法であるというべきである。
本件各処分は,裁決行政庁から本件各裁決をした旨の通知を受けた処分行政庁が,入管法49条6項に基づいてしたものであるところ,上記のとおり,本件各裁決は違法と認められるから,これを前提としてされた本件各処分も違法と認められる。
<コメント>
入管法50条1項4号は,法務大臣に在留特別許可を付与するか否かの裁量権を認めており,その裁量権の行使が違法とされるのは,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があることなどにより,その判断が重要な事実の基礎を欠く場合,または,事実に対する評価が明白に合理性を欠くことなどにより,その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかである場合とされるのが一般である。
 本件は,在留期間更新不許可処分の後に生まれた長女が日本でしか生活しておらず,その不許可処分後長期間にわたり入管当局が原告父母の日本での在留を黙認してきた等という特別な事情に着目して,法務大臣(本件では,名古屋入管局長)の裁量判断を違法としたものであり,在留特別許可の判断についての参考となる事例といえる。
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