【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例 東京地裁平成22年2月5日

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
 ミャンマーの国籍を有する外国人に対してされた難民の認定をしない処分が違法とされ,退去強制令書発付処分及び入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分が無効とされた事例です。

<事案の概要>
本件は,ミャンマーの国籍を有する男性である原告が,入管法61条の2第1項に基づき難民の認定を申請したところ,法務大臣から難民の認定をしない旨の処分を受け,入管法61条の2の9に基づく異議の申立てについても法務大臣から理由がない旨の決定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた東京入国管理局長から入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分を受けたため,原告が「難民」に該当するにもかかわらずこれを認めなかった上記難民の認定をしない旨の処分は違法であり,上記在留特別許可をしない旨の処分は無効である旨主張して,被告に対し,上記難民の認定をしない旨の処分の取消し及び上記在留特別許可をしない旨の処分の無効確認を求めるとともに,東京入国管理局横浜支局入国審査官から入管法24条1号(不法入国)に該当する旨の認定を受け,当該認定に服して口頭審理の請求を放棄したことから,東京入管横浜支局主任審査官から退去強制令書発付処分を受けたため,原告が「難民」に該当するにもかかわらずされた上記退去強制令書発付処分は違法である旨主張して,被告に対し,同処分の無効確認を求めている事案である。

<本件の争点>
①難民該当性の有無
②本件難民不認定処分
③本件在留特別許可の不許可処分
④本件退令処分

<本件判決の内容>:原告の勝ち
1.争点①難民該当性の有無
(1)判断基準
入管法にいう「難民」とは,入管法2条3号の2,難民条約1条A(2)及び難民議定書1条2を合わせ読むと,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」をいうこととなる。そして,上記の「迫害」とは,通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧を意味するものと解するのが相当であり,また,上記にいう「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要であると解するのが相当である。
(2)判断基準へのあてはめ
 原告は,〈1〉国軍に所属していたが,昭和63年の民主化運動の際に,国軍の兵士がデモ隊に発砲するなどしたことから,国軍への嫌悪感を強く抱くようになり,平成5年4月4日ころ,「国民に発砲してはならない」,「軍の中にも民主化を希望している者がいる」などと記載した貼り紙を作成し,これを軍の施設の近くの電柱に貼ったこと,〈2〉〈1〉の件で逮捕及び拘束され,同年5月24日に軍事法廷にかけられ,降格処分及び除隊処分を受けたこと,〈3〉その後,ティディム市に帰り,村民らに民主化を支持するように呼びかけ,また,兵士に国民へ発砲しないように呼びかけるなどの活動をしたこと,〈4〉同11年12月,約70名の軍関係者に対し,「軍は国民を撃ってはならない」,「民主化を支持する」などと記載したクリスマスカードを送付したこと,〈5〉〈4〉の件で,軍情報部にいた友人から警告を受けたため,インドに逃れ,さらに,日本に逃れてきたことなどが認められる。
 以上のように,原告は,国軍に所属していたにもかかわらず,国軍の方針を批判し,また,民主化を希望する旨の内容を記載した貼り紙をしたことから逮捕及び拘束され,軍事法廷にかけられて除隊処分を受けるなどしたのであって,このことから,ミャンマー政府は,原告を反政府活動を行う人物として個別に把握しているというべきである。そして,原告は,除隊処分後も,チン州の故郷に戻って民主化運動を続け,多数の軍関係者に反政府的な内容のクリスマスカードを送付し,その後,インドに逃れているのであるから,仮に,原告がミャンマーに帰国すれば,上記の活動等を理由に相当長期間拘束されるなど,迫害を受けるおそれが高いというべきである。
以上によれば,本件不認定処分当時,原告は,ミャンマーにおいて反政府活動をしていたことを理由として,ミャンマー政府から迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国であるミャンマーの外にいる者であると認めるのが相当である。
2.争点②本件難民不認定処分について
 前記の通り,原告は難民に該当するから,原告に対して難民の認定をしなかった本件不認定処分は違法であり,取り消されるべきである。
3.争点③本件在留特別許可の不許可処分について
 在留特別許可をするか否かの判断は,法務大臣等の広範な裁量にゆだねられていると解すべきであるが,当該在留資格未取得外国人が入管法上の難民に当たるか否かは,法務大臣等が在留を特別に許可するか否かについて判断する場合に当然に考慮すべき極めて重要な考慮要素であるというべきである。
 ところが,本件においては,東京入管局長は,原告が入管法上の難民であることを考慮せずに本件不許可処分を行ったことが明らかである。そうすると,本件不許可処分は,原告が入管法上の難民に該当するという当然に考慮すべき極めて重要な要素を一切考慮せずに行われたものといわざるを得ない。したがって,本件不許可処分は,東京入管局長がその裁量権の範囲を逸脱してした違法な処分というべきである。
 本件不許可処分には,出入国管理行政の安定とその円滑な運営の要請を考慮してもなお,出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として,難民である原告について入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をせず,その結果,原告に迫害を受けるおそれのある国に送還されるという不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情があるというべきである。したがって,過誤による瑕疵が明白なものでなくても,本件不許可処分は当然無効と解するのが相当である。
 以上によれば,本件不許可処分は,無効であるというべきである。
4.争点④本件退令処分について
 主任審査官は,法務大臣から異議の申出に理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは,速やかに当該外国人に対し,その旨を知らせるとともに,退去強制令書を発付しなければならないが(入管法49条6項),当該外国人が難民条約に定める難民であるときは,当該外国人を,これを迫害するおそれのある国に向けて送還することはできない(入管法53条3項,難民条約33条1項,拷問等禁止条約3条)。したがって,当該外国人が難民であるにもかかわらず,その者を,これを迫害するおそれのある国に向けて送還する退去強制令書発付処分は違法であるというべきである。
 これを本件についてみると,前示のとおり,原告は難民であるということができるから,原告を,これを迫害するおそれのあるミャンマーへ向けて送還する本件退令処分は違法であるというべきである。
 そして,同処分は,原告を迫害のおそれのあるミャンマーに送還することになるものであり,入管法の根幹に係る重大な過誤というべき瑕疵を有するものといわざるを得ない。したがって,その瑕疵が明白なものでなくとも,本件退令処分は当然無効と解するのが相当である。

<コメント>
本件の主要な争点は,原告が難民にあたるかである。
原告が,来日後,特に民主化運動をしていなかったことについては争いがなく,来日までに原告が行ったと主張する反政府活動等の事実が認められるかどうかが具体的な争点とされた。Xの反政府活動に関する直接的な証拠は提出されていないものの,Xがミャンマー国軍に属しており,その後,除隊処分を受けたことを裏付ける客観的な証拠として,退役軍人証及び写真が提出された。本判決は,反政府活動を直接裏付ける客観的な証拠がないというだけで,直ちに本人の供述の信用性を否定するのは相当ではないとし,各証拠に加えて,原告の供述内容を検討して,その信用性を認めて,難民にあたるとしたものである。
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