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【在留特別許可なら弁護士へ】在留特別許可に関する裁判例 名古屋高裁平成30年4月11日

2018-07-25

皆さんこんにちは。
このコラムでは、在留特別許可に関する判例をご紹介しています。
本日ご紹介する判例は、短期滞在から不法残留(オーバーステイ)して不法就労し、永住許可を持つ外国人と約4年間内縁関係にあったフィリピン国籍の原告について、在留特別許可を付与しなかった入国管理局長の裁決及び入管主任審査官の退去強制令書発付処分が無効であると確認された事例です。

【事案の概要】
フィリピン国籍を有する外国人女性である控訴人が、入国管理局入国審査官から、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号ロ(不法残留)に該当する等の認定を受けた後、入管特別審理官から、上記認定に誤りがない旨の判定を受けたため、入管法49条1項に基づき、法務大臣に対して異議の申出をしたところ、法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長から、平成25年7月26日付けで上記異議の申出には理由がない旨の裁決を受け、引き続き、入管主任審査官から、同月29日付けで退去強制令書発付処分を受けたため、本件裁決及び本件処分の無効確認を求めるとともに、法務大臣又はその権限の委任を受けた入管局長に対して在留特別許可の義務付けを求めた事案である。
本件の経緯
控訴人は、フィリピンにおいて、フィリピン人の両親の下に、7人兄弟の第3子として出生し、フィリピン人男性との間に未婚のまま5人の子をもうけた。
控訴人は、当時日本に滞在していた妹から、日本人の夫との間にもうけた2人の子の育児を手伝ってほしいと頼まれたため、控訴人の子らを本国の実家に残したまま、母とともに来日することとなり、平成15年11月17日、在留資格を「短期滞在」、在留期間を「90日」とする上陸許可を受け、日本に上陸した。
在留期限が到来する際に、母は在留期間更新の手続をして認められたが、控訴人は手続をとらず、フィリピンに残した控訴人の子らを養うには日本に残って働くほかないと考え、在留期限である平成16年2月15日を超えて日本に不法に残留した。
控訴人は、日本での在留資格を得るため、フィリピン人の知人を介して紹介された日系ブラジル人の男性と偽装結婚をしようと考え、平成21年2月16日、外登法8条1項に基づく変更登録の申請をし、登録を受けたが、悪いことはすべきでないと思い直し、偽装結婚をすることを思いとどまった。もっとも、本件変更登録以降、外国人登録に係る変更手続を行わなかった。
控訴人には、本件変更登録及び不法在留のほかには犯罪歴等はない。
控訴人と後に内縁関係となるOは、ブラジルにおいて、ブラジル人の父と日本人の母の下に8人きょうだいの第3子として出生した。
Oは、平成5年1月22日、姉及び妹とともに稼働目的で在留資格を「短期滞在」とする上陸許可を受けて日本に上陸し、同年3月4日、日系二世であることから、「日本人の配偶者等」への在留資格変更許可を受けた。
Oはブラジル人女性(以下「前妻」という。)と婚姻し、前妻との間に2人の子をもうけたものの、夫婦関係が悪化して別居し、前妻は子らと共にブラジルに帰国した。
Oは、平成19年11月16日、永住許可を受けた。
控訴人は、平成20年4月12日頃、当時働いていた飲食店に客として来店したOと親しく付き合うようになり、平成21年9月頃から同居を始めた。同居開始後、控訴人は、家事一切を引き受け、日勤と夜勤を交互に行うなど不規則な日常を強いられるOの生活を支えていた。
Oは、前妻が離婚に応じない態度を示していたことから、控訴人に明示的に結婚を申し込むことはしなかったが、前妻との離婚が成立すれば控訴人と正式に婚姻するつもりでおり、その意思を夫婦と変わりのない日常生活を共にすることや控訴人の子らに養育費を送金することで示しており、控訴人もそのことを理解していた。
Oは、従来の仕事を続けながら、控訴人の助けを得て、身内や友人が集まれる場を設けたいと考え、平成25年6月15日に当時の自宅の1階でレストランバーを開店した。
その2週間後の同年7月1日、控訴人に対する退去強制手続が開始された。
Oは控訴人が収容された後、前妻との離婚手続を早急に進めることとし、これを入管にも伝え、ブラジル人弁護士にブラジルにおける離婚の申立てを依頼し、同年10月21日に離婚を認める判決がされた。
控訴人とOとは、仮放免後に必要書類等をそろえ、平成26年5月15日に婚姻届を提出して婚姻した。
控訴人及びOは、互いに他方を掛替えのない伴侶として認め合っており、Oは、以前からブラジルに帰国するつもりはなく日本で一生暮らし続けたいと考えていたことから、両名ともに日本での在留を強く希望しており、控訴人も自分の得意な料理関係の仕事に就くなどして収入を得て、Oと協力して出来れば自宅を購入して自活し、我が国に負担をかけず、むしろ貢献したいと考えている。
本件の主要な争点
① 本件裁決の違法性
② 本件処分の違法性

【本件判決の内容】
1.争点①本件裁決の違法性について
控訴人と内縁関係男性Oとの同居生活の実態は客観的にみて夫婦同然の状態であり、双方の意識においてもOの前婚の解消を待って正式に婚姻しようという点で共通しており、両者の関係を乱す不安な状況も生じないまま4年余りが経過していたのであるから、既に安定かつ成熟した内縁関係が成立していたと認められ、このことは、退去強制手続を開始するために控訴人らの自宅を訪れた入国警備官による自宅室内の見分や、その後に行われた控訴人及びOからの聴取を通じて、裁決行政庁も容易に認識し得たと認められる。
また、退去強制手続開始後、Oは足繁く原告に面会するとともに、前妻との離婚手続につき僅か3か月余りで離婚判決を得ているのであり、このこともOと控訴人の内縁関係が強固なものであったことを裏付けるものである。
これに対し、被控訴人は、当時、Oと前妻との離婚手続が完了しておらず、仮に両者の関係が真摯なものであったとしても、安定かつ成熟した関係であったとまではいえないと主張する。
しかし、前妻は本件裁決の約9年前にブラジルに帰国しており、この間に法的な手続を講ずれば離婚が成立する可能性がかなり高い状況にあったと認められる。そして、現にOは控訴人に対する退去強制手続が開始されてまもなく離婚手続に着手しており、早晩離婚が成立し、控訴人とOの法的な婚姻関係が成立する可能性が高い状況にあることは裁決行政庁も認識可能な状態にあったと認められる。したがって、裁決行政庁としては、早期に裁決をする場合には控訴人とOとの間に早期に法的婚姻関係が成立する見込みが高いことを前提とした判断をすべきであり、その点に不安があれば相当期間事態の推移を見守ってから判断をするとの対応をすべきであったということができ、そのいずれの方途もとらずにされた本件裁決は、当然考慮すべき事情を考慮せずされたもの、又は明らかに時の裁量を誤ったものといわざるを得ない。
また、婚姻関係は、本来、国家が定めた公法秩序とは無関係に人の本性に基づいて成立発展するものであり、我が国において内縁関係が法律上の婚姻関係に準じて取り扱われていることも、このような婚姻関係の本質に基づくものである。したがって、被控訴人のいう違法状態の上に築かれた婚姻関係は安定かつ成熟したものではないとの主張は、このような婚姻関係の本質に反するものといわざるを得ず到底採用できないし、このような見解を前提とする本件裁決は、真に保護すべき婚姻関係が何であるかについての誤った認識を前提とする点で、その判断の前提に著しい過誤があるといわざるを得ない。
被控訴人は、控訴人の配偶者であるOが日本国籍を有する者ではなく永住者にすぎないこと、控訴人の不法在留は長期にわたる上、不法在留に至る経緯に酌むべき事情がないこと、不法在留中に、本国に送金をしていたほか虚偽の外国人登録をしたこと、控訴人は本国に送還されても生活上の支障は生じないことなどを指摘する。
しかし、Oは日系2世であって、もはや本国よりも我が国との結びつきの方が格段に強く、その年齢からして本国に帰国して新たな生活を始めるのは困難であると認められるから、その婚姻関係を日本においても十分に尊重すべきである。
また、控訴人は本国への送金をするため日本に長期間にわたって不法在留し現に送金を続けていたが、その送金は未婚の母として子らの養育費に充てるための人道上やむを得ない動機に基づくものと評価すべきものであって、在留特別許可の許否に当たって消極的事由としてことさら重視すべきものではない。
また、控訴人がフィリピンに送還された場合、これまで同国に渡航したこともなく現地の言語にも通じていないOがこれに同行することは著しく困難といわざるを得ず、控訴人とOとの婚姻関係に重大な支障を及ぼすものと認められる。したがって、被控訴人の上記主張はこのような重大な不利益を看過するものであり、これと同旨の裁決行政庁の判断も、その基礎となる重要な事実を看過している点で重大な欠落があるといわざるを得ない。
以上によると、本件裁決は、控訴人とOとの間に成熟かつ安定した内縁としての夫婦関係が成立していたにもかかわらず、これを看過し、ひいては控訴人をフィリピンへ帰国させることによる控訴人やOの受ける重大な不利益に想到することもなかった一方で、控訴人の不法残留や不法就労等をことさら重大視することによってなされたものというべきであり、その判断の基礎になる事実の認識に著しい欠落があり、また、その評価においても明白に合理性を欠くことにより、その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるから、裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものであり、その違法性は重大かつ明白なものである。
よって、控訴人による本件裁決の無効確認請求には理由がある。
2.争点②本件処分の違法性について
本件処分は、入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた入管主任審査官が、入管法49条6項に基づいてしたものであるが、上記において述べたとおり、本件裁決は裁量権の範囲を逸脱濫用した重大かつ明白な違法性があって無効なものである以上、これを前提とする本件処分も無効というほかなく、その無効確認請求にも理由がある。

【コメント】
本件では、控訴人とOとの間に成熟かつ安定した内縁としての夫婦関係が成立していたにもかかわらずこれを看過し、控訴人の不法残留や不法就労等をことさら重大視することによってなされた裁決行政庁の裁決が裁量権の範囲の逸脱又は濫用にあたるかが争点になっています。
控訴人が収容された当時、確かにOは前妻との離婚手続が完了しておらず、控訴人とOとの間には法的な婚姻関係は成立していません。
しかしながら、控訴人とOとの同居生活の実態は客観的にみて夫婦同然の状態が4年余り経過しており、既に安定かつ成熟した内縁関係が成立していたと認められ、このことは裁決行政庁も容易に認識し得たと認められます。
また、Oは控訴人に対する退去強制手続が開始されてまもなく離婚手続に着手しており、早晩離婚が成立し、控訴人とOの法的な婚姻関係が成立する可能性が高い状況にあることは裁決行政庁も認識可能な状態にあったと認められます。したがって、裁決行政庁は、早期に裁決をする場合には控訴人とOとの間に早期に法的婚姻関係が成立する見込みが高いことを前提とした判断をすべきであり、その点に不安があれば相当期間事態の推移を見守ってから判断をするとの対応をすべきであったとされました。
さらに、控訴人がフィリピンに送還された場合、控訴人とOとの婚姻関係に重大な支障を及ぼすものと認められるにも関わらず、このような重大な不利益を看過し、控訴人の不法残留や不法就労等をことさら重大視することによってなされた裁決行政庁の裁決は、裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものとされました。

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【在留特別許可なら弁護士へ】在留特別許可に関する裁判例 福岡高裁平成17年3月7日

2018-07-25

皆さんこんにちは。
このコラムでは、在留特別許可に関する判例をご紹介しています。
本日ご紹介する判例は、中国在留邦人の実子と、その配偶者又は孫として上陸許可を得た6名に対する法務大臣の在留特別許可を与えない旨の裁決及び退去強制令書の発布処分について、実子とされた者が継子であるなど虚偽申請があったとはいえ、その違法性は極めて重大とまではいえず、在留邦人やその家族と密接な関係があったことなどを考慮して、裁量権の逸脱又は濫用があったとされた事例です。

【事案の概要】
中国残留邦人であるA(日本人)の実子及びその配偶者又は孫として本邦の上陸許可を得たXら(在留資格はX3、6が実子として「日本人の配偶者等」、X1、2、4、5、7が実子の配偶者又は孫として「定住者」)が、後にX3、6がAの実子でないことが判明してXらの上陸許可を取り消されるなどしたところ、在留特別許可を求めてY1に異議を申し出たが異議に理由がない旨の裁決を受け(本件裁決)、これを受けたY2の退去強制令書発付処分(本件発付処分)を受けた。
Xらは、本件裁決・本件発付処分が裁量権を逸脱した違法な処分であるとして、処分取消を求めた事案である。X3、6は、中国人夫婦の子として出生した中国人であるが、その母がAと再婚したため、Aの連れ子(継子)となったものである。X3は、中国人と結婚するまでAと同居していたものであり、Aが日本への永住手続を取った後、X3が実子であるとのAの誓約書を得て、子X1、2と共に本邦の上陸許可を得た。X6は、母の再婚直後、他の中国人の養子となり、X1~3が本邦に入国した後、X6が実子であるとのAの誓約書を得て、夫X7、子X4、5と共に本邦の上陸許可を得た(X3、6がAの実子であるとの申請は虚偽であった。X6は、他人2人をその実子〔Aの孫〕とした虚偽の申請もしていた。)。
1審判決は、在留特別許可を付与しないことが違法となるのはその判断が全く事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限られるとした上で、X3、6がAの実子であるとの虚偽の身分関係を計画的に作り上げて入国したことは重大な違法であり、Aの継子であったからといって裁量権の範囲は限定されないなどとして、Xらが入国後は平穏な生活を送っていたことを考慮してもなお、在留特別許可を付与しないことが社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるといえないとして、Xらの請求をいずれも棄却したため、これを不服とするXらが控訴した。
本件の主要な争点
① 本件裁決及び本件発付処分が、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)ないし児童の権利に関する条約(以下、「児童の権利条約」という。)に違反するか
② 被控訴人である法務大臣の本件裁決に裁量権を逸脱又は濫用した違法があるか
③ 被控訴人である主任審査官の本件発付処分に裁量権を逸脱又は濫用した違法があるか

【本件判決の内容】
1.争点①本件裁決及び本件発付処分が、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)ないし児童の権利に関する条約(以下、「児童の権利条約」という。)に違反するかについて
(1) 難民認定法50条1項3号は、同法49条3項の裁決に当たって、異議の申出に理由がないと認めるときであっても、被控訴人法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるときには、その者の在留を許可することができる旨を定めるのみであり、その具体的な基準については特に明示していない。また、在留特別許可を付与するか否かについては、異議申立人の申立事由のみならず、当該外国人の入国経緯、在留中の一切の行状、国内及び国際情勢、外交関係等の諸般の事情を考慮して、時には高度な政治的判断も必要となり、時宜に応じた的確な判断をしなければならないことからすれば、難民認定法は、当該外国人に在留特別許可を付与するか否かを判断するに際して、被控訴人法務大臣に広範な裁量権を認めたものであると解される。したがって、被控訴人法務大臣が退去強制事由に該当する外国人に対し在留特別許可を付与しなかったことが違法となるのは、その判断が全く事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限られると解するのが相当である。
控訴人らは、本件各処分が、B規約23条等、児童の権利条約3条等に違反し、確立した国際法規の遵守を定めた憲法98条2項にも違反することを理由として、直ちに本件各処分は違法となる旨主張する。
しかし、憲法22条1項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人が本邦に入国することについては何ら規定していないものであり、このことは、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付与するかを、当該国家が自由に決定することができるものとされていることと、その考えを同じくするものと解される。したがって、憲法上、外国人は、本邦に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものでもないと解される。そして、B規約には、上記のような国際慣習法を制限する旨の規定は定められていないし、B規約13条は、「合法的にこの規約の締約国の領域内にいる外国人は、法律に基づいて行われた決定によってのみ当該領域から追放することができる。」と規定しており、不法に在留する者に対して退去強制措置をとり得ることを前提としているものと解されることからすれば、B規約は、外国人の入国及び在留の許否について国家に自由な決定権があることを前提としているものであり、マクレーン判決にいう国際慣習法上の原則を制約する「特別の条約」には当たらない。また、児童の権利条約9条4項は、締約国がとった父母の一方若しくは双方又は児童の抑留、拘禁、追放、退去強制、死亡等のいずれかの措置に基づいて父母と児童が分離した場合について規定しており、同条項は、父母と児童が退去強制措置によって分離されることがあり得ることを前提としているものと解され、児童の権利条約も、外国人の入国及び在留の許否について国家に自由な決定権があることを前提としているものであり、マクレーン判決にいう国際慣習法上の原則を制約する「特別の条約」には当たらない。
したがって、本件各処分が、B規約若しくは児童の権利条約又は憲法98条2項に違反して違法となるとの控訴人の主張は採用できない。
(2) もっとも、憲法98条1、2項(条約・国際法規の遵守)及び憲法99条(公務員の憲法尊重擁護義務)によれば、我が国の公務員は、このような国際人権条約(B規約や児童の権利条約)の精神やその趣旨(家族の結合の擁護や児童の最善の利益の保障)を誠実に遵守し、尊重する義務を負う。したがって、当該外国人に在留特別許可を付与するか否かを判断するに当たって、被控訴人法務大臣は、国際人権条約(B規約や児童の権利条約)の精神やその趣旨を重要な要素として考慮しなければならない。
2.争点②被控訴人である法務大臣の本件裁決に裁量権を逸脱又は濫用した違法があるかについて
(1)入国手続の違法性
A、X3及びX6は、公証書の記載及び申請書に記載した身分関係がいずれも虚偽であることを認識しながら、あえてその身分関係に基づいて本邦に入国しようとしたというべきである。
ウ しかしながら、X3及びX6が姓名を変更したことや継子を「長女」「次女」と呼称すること自体は中国の法律や慣行上特段違法・不自然なものではないこと、Aが各申請時に添付した戸籍等の資料は真正なものであって、これらをつぶさに検討すれば、Aの申請が虚偽であることが発覚する余地もあったこと、もしAやXらが真実の身分関係を当初から明らかにして入国申請をしておれば入国が許可された可能性がなかったとはいえないことなどの諸事情に照らすと、A、X3及びX6の入国手続における虚偽申請の違法性は極めて重大なものとまでは評価できない。
(2)本件に特有の事情
X3は、中国人母の連れ子であることをはるかに越えて、A自身及びその家族全体との関係で、Aの実子同様の密接さがあったということができ、このような家族関係は、日本国がその尊重義務を負うB規約に照らしても十分に保護されなければならないものである。
また、X3の妹であるX6は、病弱であったためやむなく他に養子で出されたが、結婚後X3と連絡を取り合い、一時帰国したAや中国人母と再会して日本国への入国を申請したものであり、そのAやX3との家族関係もX3と同様尊重されるべきである。
さらに、A、X3及びX6らの家族が本件のような事態に直面したことについては、控訴人らに退去を強制している日本国自身の過去の施策にその遠因があり、かつその救済措置の遅れにも一因があることが留意されなければならない。Aの両親が中国に渡ったのは、当時の日本国の国策であった満州国開拓民大量入植計画によるものであり、また終戦後Aの母が日本に帰国できずAの帰国が遅れたのも、日本国の引き揚げ施策が効を奏さなかったためであって、そのような中で生活維持のためにやむなくAが中国人の養子とされたのである。その後、昭和47(1972)年の日中国交回復を経、終戦後36年にしてようやく中国残留孤児の集団訪日調査が行われ、49年後の平成6(1994)年に至って、「今次の大戦に起因して生じた混乱等により、本邦に引き揚げることができず引き続き本邦以外の地域に居住することを余儀なくされた中国残留邦人などの置かれている事情にかんがみ、これらの者の円滑な帰国を促進する」ことなどを目的として、「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立支援に関する法律」(以下「中国残留邦人帰国促進自立支援法」という。)が公布されたものである。このような救済措置の遅れは、当時の国際情勢等との関係でやむを得なかった面もあるが、結果的にみてなんとしても遅きに失したとの感を否めない。そして、同法で、円滑な帰国・入国の特別配慮の対象とされている「当該中国残留邦人等の親族」の中に控訴人らのような連れ子が含まれる旨の直接の規定はないが、控訴人らは「前各号に規定する者に準ずるものとして厚生労働大臣が認める者」(同規則10条6号)に該当する余地が残されている。他方、難民認定法により「定住者」として在留資格が認められる者の中には、日本人配偶者たる外国人の連れ子が定められているが(平成2年法務省告示第132号(定住者告示)の6号)、これは未成年で未婚の者に限定されている。この規定は一般的には合理性を有するが、控訴人らのような中国残留邦人の親族の場合、実子同然に育った者であっても、上記のような引き揚げ措置の遅れによって(この間に成人に達したり結婚したりして)在留資格を取得できないという不合理が生じ、中国残留邦人帰国促進自立支援法の趣旨が没却されてしまうおそれがある。
このように、過去の日本国の施策が遠因となり、その被害回復措置の遅れによって結果的に在留資格を取得できなくなってしまっている控訴人らの立場は、本件に特有の事情として、特別在留許可の判断にあたって十分に考慮されなければならない。
(3)まとめ
これらの本件に特有の事情、前記に認定した控訴人らの日本での生活状況に顕れた控訴人らの家族の実態及び控訴人子らが我が国に定着していった経過、控訴人子らの福祉及びその教育並びに控訴人子らの中国での生活困難性等を、日本国が尊重を義務づけられているB規約及び児童の権利条約の規定に照らしてみるならば、入国申請の際に違法な行為(その違法性の程度については前述したとおりである。)があったことを考慮しても、本件裁決は、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり、被控訴人法務大臣の裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法があるというべきであるから、その余の点を判断するまでもなく、取消しを免れない。
3.争点③被控訴人である主任審査官の本件発付処分に裁量権を逸脱又は濫用した違法があるかについて
被控訴人主任審査官による本件発付処分には裁量の余地がないから、裁量権の逸脱や濫用について判断する余地はない。しかしながら、同処分は、被控訴人法務大臣による本件裁決を前提とするものであって上記のとおりその裁決が違法なのであるから、本件発付処分も違法となり取消しを免れない。

【コメント】
本判決は、1審判決と同様の裁量権の範囲を示した上で、本件各処分がXらが主張するようにB規約や児童の権利条約に違反するものではないにしても、在留特別許可の付与を判断するにあたって、条約の精神や趣旨を重要な要素として考慮しなければならないとし、入国申請の際に違法な行為があったことを考慮してもなお、本件裁決が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり、取消を免れないとしました。そして、本件発付処分は裁量の余地がないから裁量権の逸脱を判断する余地はないけれども、本件裁決を前提とするものであり、本件裁決が違法であるから本件発付処分も取消を免れないとし、原判決を取り消して、Xらの請求を認容しました。
入管法50条の在留特別許可の付与は法務大臣の自由裁量であり(最三小判昭34. 11. 10民集13巻12号1493頁)、付与しないことが違法となるのは、その判断が全く事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限られます(最大判昭53. 10. 4民集32巻7号1223頁、判タ368号196頁参照〔マクリーン事件〕)。本判決も同様の基準を示した上で、あてはめとして中国残留邦人に対する施策の遅れ等にも言及しつつ、判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとしたものです。
このような判例は、今後の同種事案の参考になると思われます。なお、本件ではXらにつき「定住者」として在留資格が与えられることとなったようです。

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【在留特別許可なら弁護士へ】在留特別許可に関する裁判例 東京地裁平成16年11月5日

2018-07-25

皆さんこんにちは。
このコラムでは、在留特別許可に関する判例をご紹介しています。
本日ご紹介する判例は、不法入国した妻と不法残留の夫のフィリピン国籍の夫婦の間に出生した子らに対する退去強制手続について、当時10歳、6歳、3歳半の子らに在留特別許可を認めなかった東京入国管理局長の判断に裁量権の逸脱又は濫用があったとは認められない一方、当時15歳の子に在留特別許可を認めなかった判断には裁量権の逸脱又は濫用があったとして、フィリピン人原告らの訴えを一部認容した事例です。

【事案の概要】
フィリピン国籍の原告A(妻)は偽造パスポートで日本に不法入国、原告B(夫)は15日の短期滞在で日本に入国してから在留期限を超えて不法滞在している。原告Aと原告Bの間に生まれた子らである原告C(15歳)、原告D(10歳)、原告E(6歳)、原告F(3歳半)も在留期限を超えて不法滞在している。これら不法入国、不法滞在により原告らは退去強制事由に該当するとして退去強制手続が開始され、原告らからの異議の申出にも理由がないと裁決を下して退去強制令書が発付された。本件は、原告らに在留特別許可を認めなかった裁決には裁量権の逸脱又は濫用があり、この裁決に基づいた退去強制令書の発付も違法だとして、原告らがこれら裁決と退去強制令書発付処分の取り消しを求める事案。

【主な争点】
原告ら、特に子らに対して、特別に在留を許可すべき事情があるとは認められないとした判断が裁量権を逸脱した違法なものかどうか

【コメント】
まず、在留特別許可を認めるかどうかについての法務大臣の判断が違法とされるのは、その判断が「全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、裁量権の範囲の逸脱又は濫用がある場合に限られる」ということが前提になります。
夫婦である原告A、原告Bについては、偽造パスポートによる不法入国と在留期限を超えての不法滞在、その後17年間にもわたる不法就労など在留状況は極めて不良であり、日本の出入国管理行政の適正を著しく害すると言わざるを得ないので、原告Aと原告Bに在留特別許可を認めなかった裁決は、「全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、裁量権の範囲の逸脱又は濫用がある場合」とは言えないとしました。
また、原告Aと原告Bとの間の子である原告D(10歳)、原告E(6歳)、原告F(3歳半)については、不法滞在者になったのは原告Aと原告Bとの間に生まれたからで自分たちではどうすることもできない事情によるものです。さらに、日本で生まれて成長してきたためタガログ語や英語を全く話すことができず、フィリピンで暮らした経験もないことを考えると、フィリピンに強制送還することによってこの子らに与える影響は決して小さなものではありません。ただ、3人とも10歳、6歳、3歳半とまだ幼いことから十分な判断能力が無く、また親である原告Aと原告Bと共にフィリピンで過ごすことで次第にフィリピンの生活環境になじむことができるだろうと予想できるので、フィリピンに強制送還することによってこの子らに与える影響は、親である原告Aと原告Bと共に暮らすことができない場合に与える影響よりも小さいと考えられます。したがって、この子ら3人に在留特別許可を認めなかった裁決は、「全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、裁量権の範囲の逸脱又は濫用がある場合」とは言えないとしました。
一方で、原告Aと原告Bとの間の子である原告C(15歳)については、他の子ら3人と同様、不法滞在者になったのは原告Aと原告Bとの間に生まれたからで自分ではどうすることもできない事情によるものです。また、原告Cについては15年間という長期にわたって日本人の子供と全く変わりない生活をしているため、言語も生活習慣も全く異なるフィリピンで生活するのは非常に困難なことが予想されます。さらに、原告Cは既に中学3年生になる直前で判断能力があり、日本で学習を続けて将来日本で仕事をすることを強く希望しています。しかしながら、東京入国管理局長が裁決をした際、上記のような原告Cの具体的な生活状況や学習状況について十分な調査や考慮がされていなかったことが認められるため、原告Cに在留特別許可を認めなかった裁決は、「全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、裁量権の範囲の逸脱又は濫用がある場合」に該当するとしました。
この判例は、外国人の未成年者がその親と共に国外に退去するかどうかという選択を自分ですることができる場合であってもその未成年者の選択によらずに強制的に国外に退去させることが東京入国管理局長の裁量権の逸脱又は濫用にあたるかどうかという問題についての事例です。当事例は、不法滞在者の家族について在留特別許可を認めるかどうかはあくまでも個別的に判断されることが原則であるという見解に立った上で、原告子らについて、個別的に在留特別許可を認めないことが裁量権の逸脱又は濫用に当たるかを判断している裁判例の一つとして、今後の同種事案の処理の参考となるでしょう。

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【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例  東京地裁平成18年3月28日

2018-06-17

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
父母に連れられて9歳の時に日本に不法入国し,その後約8年間日本において教育を受けていた中国国籍の原告について,在留特別許可を付与しなかった入国管理局長の裁決及び主任審査官の退去強制令書発付処分が違法であるとして,取り消された事例です。

<事案の概要>
中国国籍を有する男性である原告(本件退令処分当時17歳)が,被告入国審査官から本件各上陸許可取消処分を受け,その後,被告入国審査官から出入国法24条2号(不法上陸)に該当する旨の認定を受け,次いで,東京入管特別審理官から同認定に誤りがない旨の判定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入管局長から本件裁決を受け,被告主任審査官から本件退令処分を受けたため,不法上陸当時9歳であった原告には不法上陸について帰責性がなく,かつ,原告は,9歳から日本において教育を受けており,日本での教育を継続する必要があること等を理由に,本件各上陸許可取消処分はその必要性を欠く違法があり,また,在留特別許可を付与すべきであったにもかかわらずこれを認めなかった本件裁決は違法であり,それを前提とする本件退令処分も違法であるなどと主張して,被告入国審査官に対しては本件各上陸許可取消処分の各取消しを,被告東京入管局長に対しては本件裁決の取消しを,被告主任審査官に対しては本件退令処分の取消しを,それぞれ求める事案である。

<本件の主要な争点>
①本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えの適否
②本件裁決の適法性
③本件退令処分の適法性

<本件判決の内容>
1.争点①本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えの適否について
原告が本件各上陸許可取消処分を知ったのは,平成16年11月1日であり,原告が本件訴えを提起したのは,平成17年3月7日である。そうすると,本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えは,原告が本件各上陸許可取消処分を知った日から4か月以上経過した後に提起されているということになる。
  出訴期間は,不変期間であり(改正前の行訴法14条2項),当事者がその責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場合には,その事由が消滅した後1週間以内に限り,不変期間内に訴訟行為の追完をすることができる(民事訴訟法97条)。
 仮に,原告又はP1が,本件各上陸許可取消処分とその後の退去強制手続が一体のものであると誤信した事実があったとしても,それは,原告又はP1自身の主観的な問題にすぎないといわざるを得ない。したがって,原告の前記主張事実をもって,本件がその責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場合に当たるということはできない。
 以上によれば,本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えは,出訴期間経過後に提起された不適法なものであることが明らかであるというべきである。

3.争点②本件裁決の適法性について
在留特別許可を付与するか否かについての法務大臣の判断が違法とされるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣が裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した場合に限られるというべきである。
 原告は,平成8年の来日当初は,日本語や日本での学校生活に苦労したものの,日本の学校で約8年間学習し,日本人の子供と全く変わりのない生活をするまでに至っており,その学習状況や生活状況に照らすと,今後とも学習を継続し,日本社会に溶け込んで,日本社会に貢献することが十分に考えられるところであり,自分の人生や将来についても真しに考察してこれを判断する能力があったと認めることができる。
 そうすると,被告東京入管局長が,原告の学習状況や生活状況,判断能力等について,前記判示のように適正に認定していれば,不法上陸及び不法滞在については原告に何らの責任もない以上,被告東京入管局長は,原告に在留特別許可を付与した可能性が相当に高かったであろうと推認することができる。
 以上によると,原告に在留特別許可を付与しなかった本件裁決は,その判断が全く事実の基礎を欠くことが明らかである。
また,仮に,被告東京入管局長が前記のような事実関係を把握していたのに本件裁決をしたというのであれば,被告東京入管局長は,原告が中国で出生し,小学校3年生の初めまで中国で教育を受けてきたことや,原告が未成年者であることを過度に重視したか,あるいは,不法上陸及び不法滞在につき原告自身を責めることができないため,原告について好ましくない者として類型的な評価をすることができず,かつ,国外退去させられることの不利益も十分に勘案すべきであることや,原告のこれまでの努力,中国語能力の乏しさ,原告が今後とも日本社会に溶け込んで,日本社会に貢献し得ること,自分の人生についての判断能力があること等を軽視して,在留特別許可を付与しないという判断に達したものと推認するのが相当である。そうであるとすれば,そのような判断は,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるというべきである。
以上によれば,前記のとおり,在留特別許可を付与するか否かについて法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入管局長に与えられた裁量権が極めて広範なものであることを前提としても,原告に在留特別許可を付与しないとする被告東京入管局長の判断は,全く事実の基礎を欠くことが明らかであるか又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり,裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるというべきである。
3.争点③本件退令処分の適法性
 法務大臣等は,出入国法49条1項による異議の申出を受理したときには,異議の申出が理由があるかどうかを裁決して,その結果を主任審査官に通知しなければならず(同条3項),主任審査官は,法務大臣等から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたときには,速やかに当該容疑者に対し,その旨を知らせるとともに,出入国法51条の規定する退去強制令書を発付しなければならない(出入国法49条6項)。
  そうすると,本件裁決が違法である以上,これに従ってされた本件退令処分も違法であり,取消しを免れないといわざるを得ない。

<コメント>
本判決では,本件裁決中の在留特別許可を付与しないとの判断における裁量権濫用の有無が最大の争点となっている。
本件では,原告がいかんともし難い事情により,さかのぼって不法上陸者ということになったのであり,不法上陸や不法滞在について,原告に何らの帰責性もない。自らが意図して不法上陸や不法滞在を行った場合とは異なり,原告に責任を問うことができない本件のような例外的な場合については,在留特別許可の判断に当たっては,違法状態の時に生じた事実であっても,慎重に吟味しなければならないとしている。
そして,日本における生活や国外退去させられることによって失われる不利益についても,大きなものと見るべきであるとして,Xの本邦における生活,国外退去させられることによって失われる不利益,Xの将来の希望,Xの自活の能力等を総合考慮し,在留特別許可を付与しないとした判断について,全く事実の基礎を欠くことが明らかであるか,又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり,本件裁決は違法であると判断した。
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【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例  東京地裁平成18年6月30日

2018-06-14

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
日本人女性の配偶者を有するパキスタン人男性に対し,在留特別許可を付与しないでされた入管法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決には裁量権の逸脱があって違法であるとして,同裁決及びこれに基づく退去強制令書発付処分が取り消された事例です。

<事案の概要>
本件は,被告東京入国管理局長が,平成15年11月5日付けで,入管法49条1項に基づく原告X1の異議の申出は理由がない旨の裁決を行い,続いて,被告東京入国管理局主任審査官が,同裁決に基づいて同原告に対し,平成15年11月19日付けで退去強制令書の発付処分を行ったところ,原告X1及びその妻である原告X2が,原告X1に在留特別許可を与えないでした上記裁決には裁量の逸脱があり,上記裁決及びこれに基づく上記退去強制令書の発付処分は違法であるとして,上記各処分の取消しを求めるとともに,原告X2においては,上記各処分には事実を誤認してされた違法があり,憲法上保障された婚姻の自由及び婚姻関係が憲法並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)17条の家族の保護の利益を侵害されたものであって,その精神的損害を金銭に換算すると20万円を下ることはないとして,被告国に対し,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償も求めている事案である。

<本件の争点>
①本件各処分の取消しの訴えについて原告X2が原告適格を有するか
②本件各処分が違法であるか
③原告X2が国に対する賠償請求権を有するか

<本件判決の内容>
1.争点①本件各処分の取消しの訴えについて原告X2が原告適格を有するかについて
(1)判断基準
   行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
   また,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。
(2)判断基準へのあてはめ
   入管法及びその関連法令には,外国人の配偶者である日本人の婚姻関係上の権利,利益を保護すべきであるとする趣旨を含むと解される規定は存在しない。また,本件裁決に当たって,在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣等の極めて広範な裁量にゆだねられており,容疑者が日本人の配偶者であることは主要な考慮要素となり得るものではあるが,それは飽くまでも容疑者固有の属性として,我が国での在留を特別に許可すべき事情があるか否かという観点から考慮要素になり得るにすぎないのであって,当該日本人の婚姻関係上の権利,利益を保護すべきものとする趣旨を含むと解すべき根拠はない。同法2条の2第2項所定の在留資格の一つとして「日本人の配偶者等」が定められているが,当該在留資格は,外国人の地位・身分に応じて,在留中,日本で行い得る活動と在留期間をあらかじめ定めておくために設けられた資格の分類にすぎず,当該規定をもって,本件各処分に当たり,外国人の配偶者たる日本人を保護すべきものとする根拠とみることはできない。
   外国人を自国内に受け入れるか否か,これを受け入れる場合にいかなる条件を付すかは,国際慣習法上,当該国家が自由にこれを決することができるのが原則であり,また,B規約13条1項も,外国人に対する法律に基づく退去強制手続をとることを容認していることからしても,外国人は,憲法上及びB規約上の権利を,飽くまでも入管法の定める在留制度の枠内において保障されているものであって,この点も,原告X2に原告適格を認めるべき根拠となるものではないと解される。
   以上のとおりであるから,本件各処分の取消しの訴えにおいて,原告X2が原告適格を有するとはいえない。
2.争点②本件各処分が違法であるかについて
(1)判断基準
  在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねられているのであって,法務大臣は,我が国の国益を保持し出入国管理の公正を図る観点から,当該外国人の在留状況,特別に在留を求める理由の当否のみならず,国内の政治・経済・社会の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲等の諸般の事情を総合的に勘案してその許否を判断する裁量権を与えられているというべきである。そして,在留特別許可を付与するか否かに係る法務大臣の判断が違法となるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き,又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はそれを濫用した場合に限られるものと解するのが相当である。
(2)判断基準へのあてはめ
  本件裁決時までに,原告らは,愛情・信頼に基づき安定した夫婦関係を築いていること,その継続期間も,原告X1が不法残留の事実を申告し,東京入国管理局の調査に服した後の期間が大半を占めており,被告らが主張するように「不法残留という違法状態の上に形成された関係である」などと単純化できないことが認められ,これらのことからすると,原告らの夫婦関係は,十分保護に値するものというべきである。さらに,原告X1の我が国における在留状況をみると,長期間の不法残留・不法就労を始めとした法令に抵触する行為が見受けられるものの,原告X1に在留特別許可を付与せず強制退去に付した場合には,パキスタン本国において,互いの扶助・協力の下で生活し,同居を実現に移すなど,夫婦関係を維持し,これを発展させることはおよそ困難になるものと容易に推測できることからすると,被告東京入国管理局長は,原告らの夫婦関係の実体を適正に認定・評価していれば,原告X1に対しては当然に在留特別許可を付与すべきものであったと解するのが相当である。
  したがって,原告X1に在留特別許可を付与しないでした本件裁決は,全く事実の基礎を欠いており,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであって,在留特別許可を付与するか否かについて法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入国管理局長に与えられた裁量権が極めて広範なものであることを前提としても,本件裁決は裁量権の逸脱に当たるものであって違法というべきである。
  本件裁決の通知を受けた被告東京入国管理局主任審査官は,入管法49条5項により,速やかに当該容疑者に対し,その旨を知らせるとともに同法51条の規定による退去強制令書を発付しなければならないものとされているのであるから,本件裁決が違法である以上,これに従ってされた本件退令発付処分も違法であるといわざるを得ない。
3.争点③原告X2が国に対する賠償請求権を有するか
(1)判断基準  
違法性の有無は,当該行政処分によって侵害された利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,当該行政処分の発動に対する被害者側の関与の有無,程度並びに損害の程度等の諸般の事情を総合的に判断して決すべきものであり,それが違法と判断されるためには,少なくとも,当該行政処分を行った公務員に職務上の法的義務違反があったと認められる場合であることを要するものというべきである。
 (2)判断基準へのあてはめ 
本件裁決をした被告東京入国管理局長において,公務員としての職務上の法的義務違反があったと認めることはできないというべきである。また,本件裁決の通知を受けた被告東京入国管理局主任審査官が,速やかに当該容疑者に対し退去強制令書を発付しなければならないことは,前記のとおりであるから,被告東京入国管理局長に法的義務違反が認められない以上,本件退令発付処分をしたことにつき被告東京入国管理局主任審査官にも法的義務違反が認められないというべきである。
したがって,本件各処分において,国家賠償法上の違法があるとはいえないことに帰するから,その余の点について判断するまでもなく,原告X2の損害賠償請求は理由がない。

<コメント>
本件においては,婚姻後も完全な同居が実現できないまま長期間が経過しているという事情があり,この点の評価が問題となっている。
入国管理行政の場面においては,日本人との間の婚姻関係の存在が重要な考慮要素の一つであるとみられて,実体のない婚姻関係の偽装事例が横行していることが懸念され,その見極めのために,夫婦同居の有無・その具体的態様に着目して調査を行い,それを有力な判断要素とすることには十分な理由があるといえるが,同居を困難にする客観的かつ合理的な理由(本件原告らにおいては,妹の疾患と介護の必要性という事情)が存在する場合にあっては,完全な同居をしていない事実及びそこから派生的に生ずるような事情を含めて,それが真実,夫婦関係の実体の希薄さを反映した事情といえるのかなどの点について,より慎重な評価・判断を加えていく必要があると本判決では述べられている。
そして,X2が家族の介護に当たっていたなどの事情を踏まえて,Xらは愛情・信頼に基づいた夫婦関係を築いていて,その関係は保護に値すると判断した。
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弊所では弁護士と行政書士が共同して事件解決に当たっています。
弁護士と行政書士が共同受任しているため,入管が不当な判断をした場合は,弁護士がその判断につき争うことができるのが弊所の強みです。
VISAの申請にご不安のある方,オーバーステイで収容されそうという方を,全力でお守りいたします。
在留特別許可,その他の入管ビザ事件,法律問題については是非我々にご相談下さい。
東京(渋谷):03-6261-5110
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【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例 東京地裁平成18年7月19日

2018-06-13

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
来日時7歳,処分時15歳の中国人女子に対し,在留特別許可を付与しないでされた入管法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決には裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があって違法であるとして,同裁決及びこれに基づく退去強制令書発付処分が取り消された事例です。

<事案の概要>
 中国残留日本人との親子関係を偽装して我が国の在留資格を得た父と共に,平成8年12月29日に一家で来日した原告(当時7歳)が,上陸許可・在留更新許可を受けて日本で生活していたところ,父が日本人との親子関係を偽装した者であり,原告も上陸条件に適合しないにもかかわらず上陸許可を受けていた者であることが判明したとして,被告東京入国管理局入国審査官において,平成16年11月1日付けで上陸許可の取消処分を,被告東京入国管理局長において,同年12月20付けで入管法49条1項に基づく原告の異議の申出は理由がない旨の裁決を,被告東京入国管理局主任審査官において,平成17年1月28日付けで退去強制令書の発付処分を,それぞれ行ったことから,原告が,上記各処分はいずれも違法であるとして,これらの取消しを求めている事案である。

<本件の争点>
①本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えが出訴期間を徒過したか否か。
②本件各上陸許可取消処分が違法であるか否か。
③本件裁決及び本件退令発付処分が違法であるか否か。

<本件判決の内容>
1.争点①本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えが出訴期間を徒過したか否か
行政事件訴訟法14条1項は,取消訴訟の出訴期間は,処分又は裁決があったことを知った日の翌日から起算して3か月であり,同条2項は,出訴期間を不変期間と規定している。
  原告が本件各上陸許可取消処分を知ったのは,平成16年11月1日であり,原告が本件訴えを提起したのは,平成17年3月7日であるから,本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えは,原告が当該処分を知った日から起算して3か月が経過した後に提起されていることになる。
 出訴期間の起算点である「処分があったことを知った日」とは,訴えを提起した者が処分があったことを現実に知った日をいい,これについて出訴できることを具体的に認識していることまでを必要とするものではない。そして,原告及びその父母が平成16年11月1日に被告入国審査官から本件各上陸許可取消処分がされた旨を告知された事実に争いはない。
 以上によれば,本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えは,出訴期間経過後に提起された不適法なものであるから,却下を免れない。
2.争点②本件各上陸許可取消処分が違法であるか否かについて
(1)判断基準
在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねられているのであって,法務大臣は,我が国の国益を保持し出入国管理の公正を図る観点から,当該外国人の在留状況,特別に在留を求める理由の当否のみならず,国内の政治・経済・社会の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲等の諸般の事情を総合的に勘案してその許否を判断する裁量権を与えられているというべきである。そして,在留特別許可を付与するか否かに係る法務大臣の判断が違法となるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き,又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣に与えられた裁量
権の範囲を逸脱し,又はそれを濫用した場合に限られるものと解するのが相当である。
(2)判断基準へのあてはめ
原告は,7歳の来日時から一貫して日本語による初等・中等教育を受けてきたことにより,当初は苦労したものの,日本語の言語能力・日本語による学習能力を年齢相応に着実に身につけていったといえる反面,中国語については,家庭内の日常会話が辛うじて可能であるほか,来日時の小学校1年生程度の能力すら保持できていないことから,中国に帰国したとしても,我が国で受けていたのと同程度の教育に順応することは極めて困難であり,仮にそれが可能であったとしても,小学生程度のレベルにさかのぼって学習をやり直さなければならないなど基礎的な中国語の習得や社会・文化への適応に多大な労力・時間を要することになるのは明らかである。そうすると,我が国に継続して滞在し,日本語での教育を受けながら,進学・就職等を目指している原告にとって,中国へ退去することを強制するのは,著しい不利益を強いるものといわざるを得ない。
加えて,未成年である原告が我が国に在留を続ける場合の経済的基盤,養育・監護の具体的方法に関しては,本件裁決時においても指摘できることとして,仮に父母が帰国し,原告ら兄妹のみが我が国にとどまった場合でも,兄妹で支え合うことが十分想定できたとともに,里親委託の制度が利用でき,養育に適した家庭の下で公的扶助を受けながら学業を続けることが可能であったこと,多数の支援者が求める会を結成し,相当額の寄付を集めるなど物心両面の組織的な援助が見込める状況にあったこと,母・Bが受けられる交通事故の保険金等,学費や生活費に振り向けることができる相当額の原資もあり,原告ら兄妹にはアルバイトの経験があって,そこから収入を得ることも可能であったことが認められる
以上によれば,原告において,我が国に在留し,通学しながら日本語で学習を続ける利益は,十分保護に値するものというべきであり,原告の生活状況,学習状況及び言語能力,さらには,中国に帰国した場合に生ずるであろう不利益を適正に認定・評価していれば,原告に対しては,当然に在留特別許可を付与すべきものであったと解するのが相当である。
  したがって,原告に在留特別許可を付与しないでした本件裁決は,全く事実の基礎を欠き,又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであって,在留特別許可を付与するか否かについて法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入国管理局長に与えられた裁量権が極めて広範なものであることを前提としても,本件裁決は裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるものであって違法というべきである。
3.争点③本件裁決及び本件退令発付処分が違法であるか否かについて
 本件裁決の通知を受けた被告主任審査官は,入管法49条5項により,速やかに当該容疑者に対し,その旨を知らせるとともに同法51条の規定による退去強制令書を発付しなければならないものとされているのであるから,本件裁決が違法である以上,これに従ってされた本件退令発付処分も違法であるといわざるを得ない。

<コメント>
本判決は,本件上陸許可取消処分の取消しを求める訴えについては,出訴期間が経過した後に提起された不適法なものであるとして却下した。
本件裁決の取消請求については,退去強制事由がある外国人に対し在留特別許可を付与するか否かの判断は極めて広範な裁量にゆだねられているとしつつ,原告は中国語の日常会話は可能であるものの,学校教育のほとんどを日本語で受けているため,帰国してもその対応に困難が伴うこと,裁決時は15歳に達しており,高等学校の入試もこれと近接した時期に行われて,その後合格していること等の事情があることから,在留特別許可を付与すべきであり,本件裁決は裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法なものであると結論づけ,本件裁決及びこれを基にした本件退令発付処分を取り消したものである。
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【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例 東京地裁平成22年1月22日

2018-06-13

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
日本に不法入国したペルー共和国の国籍を有する夫婦及び日本で出生した同夫婦の未成年の子らのうち,裁決時14歳であり,その後脳腫瘍が発見された長男についてされた在留特別許可をしないという判断は裁量権の範囲を逸脱したものであるとして,長男に対する裁決及び退去強制令書発付処分が取り消された事例です。

<事案の概要>
本件は,東京入国管理局横浜支局入国審査官からそれぞれ入管法24条1号(不法入国)に該当する旨の認定を受け,次いで,東京入管横浜支局特別審理官からそれぞれ上記認定に誤りはない旨の判定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた東京入国管理局長から,それぞれ入管法48条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受けたペルーの国籍を有する外国人の男性である第一事件原告(原告父)及び同外国人の女性である第二事件原告(原告母),並びに東京入管横浜支局入国審査官からそれぞれ入管法24条7号(不法残留)に該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨の認定を受け,次いで,東京入管横浜支局特別審理官から,それぞれ上記認定に誤りはない旨の判定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた東京入管局長から,それぞれ入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受けたペルー国籍を有する外国人の男性である第三事件原告(原告長男)及び同外国人の女性である第四事件原告(原告長女)が,東京入管横浜支局主任審査官からそれぞれ退去強制令書発付処分を受けたため,上記各裁決及び上記各退去強制令書発付処分の取消しを求めた事案である。

<本件の争点>
①本件各裁決の適法性
②本件各退令処分の適法性

<本件判決の内容>
1.争点①本件各裁決の適法性について
(1)判断基準
  外国人の出入国管理は,国内の治安と善良な風俗の維持,保健,衛生の確保,外交関係の安定,労働市場の安定等,種々の国益の保持を目的として行われるものであって,このような国益の保持の判断については,広く情報を収集し,時宜に応じた専門的又は政策的考慮を行うことが必要であり,時には高度な政治的判断を要することもあり,特に,既に退去強制されるべき地位にある者に対してされる在留特別許可の許否の判断に当たっては,このような考慮が必要であることを総合勘案すると,上記在留特別許可をするか否かの判断は,法務大臣の広範な裁量にゆだねられていると解すべきである。そして,以上のことは,法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長についても同様に当てはまるところというべきである。
  そして,上記のような在留特別許可をするか否かの法務大臣等の裁量権の内容,性質等にかんがみると,在留特別許可をしないとの法務大臣等の判断は,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により全く事実の基礎を欠く場合や,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り,裁量権を逸脱し,又は濫用したものとして違法になるものと解される。
(2)判断基準へのあてはめ
  原告父母は,いずれもペルーにおいて偽造旅券を入手し,原告父は日系人,原告母は日系人の妻とそれぞれ偽って不法入国をし,以後,いずれも16年以上もの長期間にわたって不法在留をしてきたこと,原告父母は,その間,不法就労をしていること,原告父は日系人,原告母は日系人の妻になりすまして在留資格変更許可を受けて本邦に在留しようと考え,原告父は,現に在留資格変更許可を受け,その後,在留期間更新許可を受けたものであり,原告母は,稼働先を得るために偽造の外国人登録証明書を行使し,実際に身分を偽って稼働していたこと,原告母は,入管法違反及び偽造有印公文書行使の罪により,懲役3年,5年間執行猶予の有罪判決を受けていることからすると,その入国及び在留の状況は,相当に悪質なものであるといわざるを得ない。なお,本件各裁決後の事情であるが,原告母は,執行猶予期間中に無免許運転を行って罰金刑に処せられており,遵法精神に問題があることもうかがわれる。これらの事情は,在留特別許可をするかどうかの判断に当たって,重大な消極的要素として考慮されるべき事情である。そして,原告父母は,いずれも本国であるペルーで出生して成育し,ペルー国内で生活を営んできたものであって,来日するまで我が国とは何らのかかわりもなかった者であり,稼働能力を有する成人であって,ペルーには,原告父母の親や兄弟が居住しており,上記親族らの援助を期待することができることからすると,原告父母がペルーに帰国して再び生活を始めることには,ある程度の苦労が伴うであろうことはうかがわれるものの,原告父母をペルーへ退去強制するとした東京入管局長の判断が,裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものであるということはできない。
  原告長女がペルーへ退去強制された場合に,当初は言語,学習,生活習慣等の面で現地での生活に順応することに相当の困難が生ずるであろうものの,原告長女が可塑性に富む年齢であること,両親である原告父母はスペイン語に不自由はなく,ペルーの生活習慣を理解しており,原告長女の保護及び監督をし,その生活に対する配慮をし得ること,ペルーには原告父母の親や親族らが生活しており,その親族らからの協力も受け得ること,原告長女も日常会話程度のスペイン語を話すことができること等を総合考慮すると,原告長女も,時間の経過とともにペルーにおける生活環境に慣れ親しむことは十分に可能であると考えられる。そうすると,原告長女がペルーに帰国した場合に,しばらくの間は心理的及び物理的に相当な負担を負うとしても,両親である原告父母が共に帰国するのであれば,原告長女をペルーへ退去強制するとした東京入管局長の判断が,裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものであるということはできない。
原告長男については,本邦への定着性は非常に強く,ペルーに帰国した場合に被る不利益の内容は相当に大きいというべきであり,また,その健康及び生命の維持という人道的配慮から,特別に在留を認めるか否かについて特に慎重な判断が求められていたというべきである。そして,東京入管局長が,本件裁決(長男)の当時,原告長男の病状を正確に把握し,これを正当に評価していたのであれば,少なくともその正確な診断と適切な治療を受けるまでの間は,人道的配慮からも在留を特別に認める判断をすべきであったというべきであり,また,法務省入国管理局が定める「在留特別許可に係るガイドライン」においても,「難病・疾病等により本邦での治療を必要とする場合」を在留特別許可の許否判断に係る積極的考慮要素として定めていることからすれば,原告長男の在留を特別に認める判断がされた可能性が高かったというべきである。したがって,原告長男に対し在留特別許可をしないという判断は,本来,考慮すべき事項を考慮せずにされたものといわざるを得ず,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があることにより全く事実の基礎を欠き,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであって,東京入管局長の裁量権が広範なものであることを考慮しても,その裁量権の範囲を逸脱してされたものといわざるを得ない。
2.争点②本件各退令処分の適法性について
 本件各退令処分(父),同(母)及び同(長女)については,他に違法な点は見当たらないので,いずれも適法であるというべきである。他方,本件裁決(長男)が違法であることは前記のとおりであるから,これを前提とする本件退令処分(長男)も違法であり,取消しを免れないというべきである。

<コメント>
本判決は,父,母及び裁決時11歳であった長女の各請求を棄却したが,裁決時14歳であった長男の請求を認容し,同人に対してされた裁決及び退去強制令書発付処分を取り消したものである。
長女については,裁決時11歳と幼く,環境の変化に対する順応性や可塑性を十分に有していることなどから,時間の経過とともにペルーにおける生活環境に慣れ親しむことは十分に可能であるとして,裁量権の逸脱又は濫用はないと判断した。一方,長男については,裁決時14歳であり,中学生であったことに加え,裁決時に脳腫瘍に罹患していたという事情を考慮して,在留特別許可をしなかった判断に裁量権の範囲を逸脱した違法があると判断した。
 本判決は,脳腫瘍が発見されたのは,裁決の約10箇月後であるものの,長男の脳腫瘍は,良性であるにもかかわらず,平成21年4月の時点で最大約3cmに及ぶ比較的大きなもので,既に右頸静脈孔から右小脳橋角部へと伸展していたこと,平成20年9月ころには症状が現れていたことなどに照らせば,同年3月の裁決の時点で,既に一定程度の大きさの腫瘍として存在していたものと推認することができるとして,脳腫瘍を裁決の当時の事情として考慮し,違法性の判断基準について一般に判例が採用する処分時説を前提としつつ,処分後の事実から処分時に存在した事実を推認するという手法を採ったものということができる。
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【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例 東京地裁平成22年1月29日

2018-06-11

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
ミャンマーの国籍を有する夫婦に対してされた難民の認定をしない処分が違法とされ,そのことから退去強制令書発付処分及び入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分が違法又は無効とされた事例です。

<事案の概要>
ミャンマー国籍を有する外国人の男性である原告父は平成4年に他人名義の旅券を利用し,ミャンマー国籍を有する外国人の女性である原告母は平成5年に短期滞在の上陸許可を受け,それぞれ日本に入国した。原告父及び原告母は,その後日本で知り合い,婚姻し,平成12年に原告子が出生したが,平成18年6月に入管法違反容疑で逮捕された。原告父及び原告母は,難民認定申請をしたが,同年8月,法務大臣から難民不認定処分を受け,東京入国管理局長から入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可をしない旨の処分を受けた。また,原告父は,同月,異議の申出には理由がない旨の裁決及び退去強制令書発付処分を受け,原告母及び原告子は,平成19年11月,いずれも異議の申出には理由がない旨の裁決及び退令処分を受けた。そこで,原告らは,上記各処分の取消し又は無効確認を求めた。

<本件の争点>
①原告父及び原告母に対する難民不認定処分
②原告父及び原告母に対する在留特別許可の不許可処分
③原告父及び原告母に対する異議の申出に理由がない旨の裁決
④原告子に対する異議の申出に理由がない旨の裁決
⑤原告らに対する退令処分

<本件判決の内容>
1.争点①X1及びX2に対する難民不認定処分
(1)判断基準
入管法にいう「難民」とは,入管法2条3号の2,難民条約1条A(2)及び難民議定書1条2を合わせ読むと,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないものをいうこととなる。そして,上記の「迫害」とは,通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧を意味するものと解するのが相当であり,また,上記にいう「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要であると解するのが相当である。
(2)判断基準へのあてはめ
原告母は,ミャンマーを出国する以前から,デモに参加するなどの反政府活動をし,そのために1度は身柄を拘束され,今後政治活動を行わないという内容の誓約書に署名するなどしていることから,反政府活動を行う人物であるとしてミャンマー政府に個別に把握されている可能性がある。さらに,原告母は,日本上陸後も,ミャンマー人の民主活動家であるA経営のパガンで働きながら,同人の活動を手伝い,BWU日本支部の結成に関与し,また,DFB日本支部に加入するなどし,以後,出産及び育児等のため一時的に活動をしていなかった時期を除けば,BWU日本支部のメンバーとしてデモや講演会活動をするなど,一貫して民主化運動を行っていたものである。そして,原告母の写真及び氏名は,DFB日本支部のホームページ上にも掲載され,原告母がデモに参加している写真等も同ホームページに掲載されているのであるから,このような事情は,ミャンマー政府においても十分把握することが可能な状況にあったということができる。
原告父は,ミャンマーを出国する以前から,デモに参加するなどの反政府活動をし,そのために警察から取調べを受けるなどしており,また,実名を記載した反政府的な内容の書面を配り,そのことが体制側の組織のメンバーに報告されるなどしていることから,反政府活動を行う人物であるとしてミャンマー政府に個別に把握されている可能性がある。さらに,原告父は,日本に上陸し,原告母と知り合った後は,原告母の活動を手伝い,また,DFB日本支部に加入し,その政治活動部門の副責任者として活動するなどしている上,原告父の写真及び氏名は,同日本支部のホームページ上にも掲載され,原告父がデモに参加している写真も同ホームページに掲載されているのであるから,このような事情は,ミャンマー政府においても十分把握することが可能な状況にあったということができる。
以上によれば,本件各不認定処分当時,原告父母は,いずれも,ミャンマー及び我が国において反政府活動をしていたことを理由として,ミャンマー政府から迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であると認めるのが相当である。
 よって,原告父母には難民該当性を認めることができるから,本件各不認定処分はいずれも違法であるというべきである。したがって,本件各不認定処分は,いずれも取消しを免れない。
2.争点②X1及びX2在留特別許可の不許可処分
 本件各不許可処分は,難民である原告父母について入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしないというものであり,その結果,原告父母を,これを迫害するおそれのあるミャンマーに送還することとなるものであるが,我が国が難民条約及び拷問等禁止条約を批准し,難民条約33条1項を前提に入管法53条3項が規定されていること,入管法上の難民の意義,性質等に照らせば,難民である外国人を,これを迫害するおそれのある国に向けて送還してはならないことは,入管法上明らかであるから,本件各不許可処分は,難民である原告父母について入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をせず,その結果,原告父母を,これを迫害するおそれのある国に向けて送還しようとする点において,入管法の根幹についての重大な過誤というべき瑕疵を有するものといわなければならない。
 そうすると,本件各不許可処分には,出入国管理行政の安定とその円滑な運営の要請を考慮してもなお,出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として,難民である原告父母について入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をせず,その結果,原告父母に迫害を受けるおそれのある国に送還されるという不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情があるというべきである。したがって,前記の過誤による瑕疵が明白なものでなくても,本件各不許可処分は当然無効と解するのが相当である。
以上によれば,本件各不許可処分は,いずれも無効であるというべきである。
3.争点③X1及びX2に対する異議の申出に理由がない旨の裁決
 原告父母は入管法61条の2の6第4項所定の難民認定申請をした在留資格未取得外国人であるところ,前示のとおり,原告父母が難民であることは認められるものの,原告父母が難民であることは,原告父母が退去強制対象者に該当するかどうかという点に係る特別審理官の判定に対する異議の申出に理由がない旨の本件裁決の違法事由であるということはできず,他に本件裁決(父母)における裁決固有の瑕疵(行政事件訴訟法10条2項参照)に係る主張はないから,結局,本件裁決(父母)はいずれも適法であるといわざるを得ない。
したがって,本件裁決(父母)の無効確認又は取消しを求める原告父母の請求は,いずれも理由がない。
4.争点④X3に対する異議の申出に理由がない旨の裁決
 原告子は,入管法24条7号所定の退去強制事由に該当するから,法律上当然に退去強制されるべき外国人に当たることが明らかである。しかしながら,前示のとおり,原告子の親権者である原告父母は,いずれも難民に該当するというべきであり,原告父母について,これを迫害するおそれのあるミャンマーに送還することは許されないところ,原告子は,本件裁決(子)時において,いまだ7歳,小学校1年生であった者であり,日本において出生し,原告父母の庇護の下,日本において養育されていたのであって,前記のとおり,原告父母の親族がミャンマーで生活していることを考慮しても,原告子のみを原告父母から引き離してミャンマーに送還することは,原告子の健全な生育を阻害するおそれがあり,子の福祉の観点からも,人道的な見地からも明らかに不相当であるというべきである。
 そうすると,本件裁決(子)は,原告父母が入管法上の難民に該当し,ミャンマーに送還することができないという当然に考慮すべき極めて重要な要素を一切考慮せずに行われたものといわざるを得ない。したがって,本件裁決(子)は,東京入管局長がその裁量権の範囲を逸脱してした違法な処分というべきである。
5.争点⑤Xらに対する退令処分
原告父母は難民であるということができるから,原告父母を,これを迫害するおそれのあるミャンマーへ向けて送還する本件退令処分(父母)は違法であるというべきであり,本件退令処分(母)については取消しを免れない。
 また,本件退令処分(父)については,その有効性が問題となるが,同処分は,原告父を迫害のおそれのあるミャンマーに送還することになるものであり,前記3(2)のとおり,入管法の根幹についての重大な過誤というべき瑕疵を有するものといわざるを得ない。したがって,その瑕疵が明白なものでなくとも,本件退令処分(父)は当然無効と解するのが相当である。
  本件裁決(子)が違法であることは前記のとおりであるから,これを前提とする本件退令処分(子)も違法であり,取り消されるべきものである。

<コメント>
本件の主な争点は,原告父及び原告母が難民にあたるかであり,本判決は,供述のほか,日本に滞在するミャンマーの活動家の証言に基づいて,詳細な事実を認定し,両名の難民該当性を肯定して難民不認定処分を取り消した上,子に対してされた裁決及び退令処分を取り消した事案である。
 平成16年の入管法の改正により,退去強制手続を経ずに難民認定手続の中で定住者の在留資格を付与することができるものとされた(入管法62条の2の2)ことを踏まえて,本判決は入管法50条1項の適用を除外した入管法61条の2の6第4項の趣旨を解釈し,難民認定申請をした在留資格未取得外国人については,難民認定手続の中で本邦への在留の許否が判断され,退去強制手続中の裁決においては,在留特別許可の許否が判断されることはなく,退去強制事由の有無のみが判断されるとした上,当該外国人が難民であることは,裁決の違法事由とはならないとしたものである。 
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弊所では弁護士と行政書士が共同して事件解決に当たっています。
弁護士と行政書士が共同受任しているため,入管が不当な判断をした場合は,弁護士がその判断につき争うことができるのが弊所の強みです。
VISAの申請にご不安のある方,オーバーステイで収容されそうという方を,全力でお守りいたします。
在留特別許可,その他の入管ビザ事件,法律問題については是非我々にご相談下さい。
東京:03-6261-5110
神奈川:0467-38-8263
名古屋:052-253-8826

【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例 東京地裁平成22年2月5日

2018-06-08

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
 ミャンマーの国籍を有する外国人に対してされた難民の認定をしない処分が違法とされ,退去強制令書発付処分及び入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分が無効とされた事例です。

<事案の概要>
本件は,ミャンマーの国籍を有する男性である原告が,入管法61条の2第1項に基づき難民の認定を申請したところ,法務大臣から難民の認定をしない旨の処分を受け,入管法61条の2の9に基づく異議の申立てについても法務大臣から理由がない旨の決定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた東京入国管理局長から入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分を受けたため,原告が「難民」に該当するにもかかわらずこれを認めなかった上記難民の認定をしない旨の処分は違法であり,上記在留特別許可をしない旨の処分は無効である旨主張して,被告に対し,上記難民の認定をしない旨の処分の取消し及び上記在留特別許可をしない旨の処分の無効確認を求めるとともに,東京入国管理局横浜支局入国審査官から入管法24条1号(不法入国)に該当する旨の認定を受け,当該認定に服して口頭審理の請求を放棄したことから,東京入管横浜支局主任審査官から退去強制令書発付処分を受けたため,原告が「難民」に該当するにもかかわらずされた上記退去強制令書発付処分は違法である旨主張して,被告に対し,同処分の無効確認を求めている事案である。

<本件の争点>
①難民該当性の有無
②本件難民不認定処分
③本件在留特別許可の不許可処分
④本件退令処分

<本件判決の内容>:原告の勝ち
1.争点①難民該当性の有無
(1)判断基準
入管法にいう「難民」とは,入管法2条3号の2,難民条約1条A(2)及び難民議定書1条2を合わせ読むと,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」をいうこととなる。そして,上記の「迫害」とは,通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧を意味するものと解するのが相当であり,また,上記にいう「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要であると解するのが相当である。
(2)判断基準へのあてはめ
 原告は,〈1〉国軍に所属していたが,昭和63年の民主化運動の際に,国軍の兵士がデモ隊に発砲するなどしたことから,国軍への嫌悪感を強く抱くようになり,平成5年4月4日ころ,「国民に発砲してはならない」,「軍の中にも民主化を希望している者がいる」などと記載した貼り紙を作成し,これを軍の施設の近くの電柱に貼ったこと,〈2〉〈1〉の件で逮捕及び拘束され,同年5月24日に軍事法廷にかけられ,降格処分及び除隊処分を受けたこと,〈3〉その後,ティディム市に帰り,村民らに民主化を支持するように呼びかけ,また,兵士に国民へ発砲しないように呼びかけるなどの活動をしたこと,〈4〉同11年12月,約70名の軍関係者に対し,「軍は国民を撃ってはならない」,「民主化を支持する」などと記載したクリスマスカードを送付したこと,〈5〉〈4〉の件で,軍情報部にいた友人から警告を受けたため,インドに逃れ,さらに,日本に逃れてきたことなどが認められる。
 以上のように,原告は,国軍に所属していたにもかかわらず,国軍の方針を批判し,また,民主化を希望する旨の内容を記載した貼り紙をしたことから逮捕及び拘束され,軍事法廷にかけられて除隊処分を受けるなどしたのであって,このことから,ミャンマー政府は,原告を反政府活動を行う人物として個別に把握しているというべきである。そして,原告は,除隊処分後も,チン州の故郷に戻って民主化運動を続け,多数の軍関係者に反政府的な内容のクリスマスカードを送付し,その後,インドに逃れているのであるから,仮に,原告がミャンマーに帰国すれば,上記の活動等を理由に相当長期間拘束されるなど,迫害を受けるおそれが高いというべきである。
以上によれば,本件不認定処分当時,原告は,ミャンマーにおいて反政府活動をしていたことを理由として,ミャンマー政府から迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国であるミャンマーの外にいる者であると認めるのが相当である。
2.争点②本件難民不認定処分について
 前記の通り,原告は難民に該当するから,原告に対して難民の認定をしなかった本件不認定処分は違法であり,取り消されるべきである。
3.争点③本件在留特別許可の不許可処分について
 在留特別許可をするか否かの判断は,法務大臣等の広範な裁量にゆだねられていると解すべきであるが,当該在留資格未取得外国人が入管法上の難民に当たるか否かは,法務大臣等が在留を特別に許可するか否かについて判断する場合に当然に考慮すべき極めて重要な考慮要素であるというべきである。
 ところが,本件においては,東京入管局長は,原告が入管法上の難民であることを考慮せずに本件不許可処分を行ったことが明らかである。そうすると,本件不許可処分は,原告が入管法上の難民に該当するという当然に考慮すべき極めて重要な要素を一切考慮せずに行われたものといわざるを得ない。したがって,本件不許可処分は,東京入管局長がその裁量権の範囲を逸脱してした違法な処分というべきである。
 本件不許可処分には,出入国管理行政の安定とその円滑な運営の要請を考慮してもなお,出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として,難民である原告について入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をせず,その結果,原告に迫害を受けるおそれのある国に送還されるという不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情があるというべきである。したがって,過誤による瑕疵が明白なものでなくても,本件不許可処分は当然無効と解するのが相当である。
 以上によれば,本件不許可処分は,無効であるというべきである。
4.争点④本件退令処分について
 主任審査官は,法務大臣から異議の申出に理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは,速やかに当該外国人に対し,その旨を知らせるとともに,退去強制令書を発付しなければならないが(入管法49条6項),当該外国人が難民条約に定める難民であるときは,当該外国人を,これを迫害するおそれのある国に向けて送還することはできない(入管法53条3項,難民条約33条1項,拷問等禁止条約3条)。したがって,当該外国人が難民であるにもかかわらず,その者を,これを迫害するおそれのある国に向けて送還する退去強制令書発付処分は違法であるというべきである。
 これを本件についてみると,前示のとおり,原告は難民であるということができるから,原告を,これを迫害するおそれのあるミャンマーへ向けて送還する本件退令処分は違法であるというべきである。
 そして,同処分は,原告を迫害のおそれのあるミャンマーに送還することになるものであり,入管法の根幹に係る重大な過誤というべき瑕疵を有するものといわざるを得ない。したがって,その瑕疵が明白なものでなくとも,本件退令処分は当然無効と解するのが相当である。

<コメント>
本件の主要な争点は,原告が難民にあたるかである。
原告が,来日後,特に民主化運動をしていなかったことについては争いがなく,来日までに原告が行ったと主張する反政府活動等の事実が認められるかどうかが具体的な争点とされた。Xの反政府活動に関する直接的な証拠は提出されていないものの,Xがミャンマー国軍に属しており,その後,除隊処分を受けたことを裏付ける客観的な証拠として,退役軍人証及び写真が提出された。本判決は,反政府活動を直接裏付ける客観的な証拠がないというだけで,直ちに本人の供述の信用性を否定するのは相当ではないとし,各証拠に加えて,原告の供述内容を検討して,その信用性を認めて,難民にあたるとしたものである。
—————————————————————————————————-
弊所では弁護士と行政書士が共同して事件解決に当たっています。
弁護士と行政書士が共同受任しているため,入管が不当な判断をした場合は,弁護士がその判断につき争うことができるのが弊所の強みです。
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【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例 東京地裁平成22年6月8日

2018-06-07

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
ミャンマー国籍を有する外国人について難民に該当するとして,難民の認定をしない処分等は取り消され,在留特別許可をしない処分は無効とされた事例です。

<事案の概要>
本件は,ミャンマー国籍を有する外国人である原告が,ミャンマー及び日本において反政府活動に従事していたこと等により帰国すれば迫害を受けるおそれがあることから入管法2条3号の2並びに難民条約1条及び1条にいう「難民」に該当すると主張して,原告に対してされた難民の認定をしない処分,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決及び退去強制令書発付処分の各取消し並びに入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない処分の無効確認を求めた事案である。

<本件の争点>
①本件不認定処分の取消事由の有無(Xの難民該当性の有無)
②本件在留特別許可の不許可処分が無効であるか
③本件裁決の適法性
④本件退令発付処分の適法性

<本件判決の内容>
1.争点①本件不認定処分の取消事由の有無(Xの難民該当性の有無)
(1)判断基準
  入管法にいう難民とは,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及び常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって,当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」をいう。そして,上記の「迫害」とは,通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧を意味するものと解するのが相当であり,また,上記にいう「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要であると解される。
(2)判断基準へのあてはめ
原告は,専門学校に在籍中にCNF(チン民族戦線)のために寄附金を集めるとともに,CNFが作成した政治宣伝チラシを配布する活動に従事していたが,その活動がミャンマー政府の知るところになれば,原告は,その政治的意見を理由に身柄を拘束されるなどして生命又は身体の自由の侵害又は抑圧を受ける相当程度の蓋然性があるということができる。その上で,原告の父がチン州ハカー郡区におけるNLD(国民民主連盟)の幹部であったことや,原告自身もCNFの活動に従事していたBとの関係やNLDの構成員としての活動等に関し数回ミャンマー政府当局者から取調べを受けていることなどからすれば,原告がミャンマー政府ないしその政策等に批判的な意見を有する者であることをミャンマー政府に把握されている可能性が高いということができることに加え,原告が日本に入国した後に,CNFの元構成員がミャンマー政府当局者に対し原告がCNFの活動を支援したこと等を供述したというのであるから,これらの事情は,通常人が原告の立場に置かれた場合にもその政治的意見を理由に迫害されるとの恐怖を抱くような客観的事情であるということができる。
以上によれば,本件不認定処分当時,原告は,その政治的意見を理由にミャンマー政府から迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であったと認められる。
よって,原告については,難民に該当するものと認めることができるから,本件不認定処分は,違法であり,取消しを免れない。
2.争点②本件在留特別許可の不許可処分が無効であるか
(1)判断基準
 在留特別許可をすべきか否かの判断は,法務大臣等の広範な裁量にゆだねられていると解すべきであり,法務大臣等による判断が違法とされるのは,上記判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合に限られるというべきである。
 行政処分が法定の処分要件を欠き違法である場合に,当該処分の取消しを求める司法上の救済手続においては,法定の出訴期間の遵守が要求され,その所定の期間を経過した後は,原則としてもはや当該処分の瑕疵を理由としてその効力を争うことはできないものとされているが,その瑕疵が重大かつ明白で当該処分が無効と評価される場合には,このような出訴期間による制約は課されないものとされている。かかる無効原因として瑕疵の明白性が要求される理由は,重大な瑕疵による処分によって侵害された国民の権利保護の要請と,これに対するものとしての法的安全及び第三者の信頼保護の要請との調和を図る必要性にあるということができる。そうであるとすると,一般に,入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない処分が当該外国人に対してのみ効力を有するもので,当該処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要が乏しいこと等を考慮すれば,当該処分の瑕疵が入管法の根幹についてのものであり,かつ,出入国管理行政の安定とその円滑な運営が要請されることを考慮してもなお出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として当該外国人に処分による重大な不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には,上記の過誤による瑕疵が必ずしも明白なものでなくても,当該処分は当然に無効であると解するのが相当である。
(2)判断基準へのあてはめ
   原告が難民に該当すると認められるのは前記のとおりであるところ,本件在特不許可処分は,難民である原告についてこれが難民でないとの前提で入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をせず,その結果,原告を迫害するおそれがあるミャンマーに向けて送還しようとするものであるから,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものというべきである。そして,その瑕疵は,入管法の根幹についてのものというべきものであり,かつ,出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として難民である原告について入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしないことは,原告に迫害を受けるおそれがある国に送還されるという重大な不利益を甘受させるものであり,出入国管理行政の安定とその円滑な運営の要請を考慮してもなお著しく不当なものであると認められる。
したがって,上記の瑕疵が必ずしも明白なものでなくても,本件在特不許可処分は当然に無効と解するのが相当である。
3.争点③本件裁決の適法性
原告は,入管法61条の2の6第4項に定める難民認定申請をした在留資格未取得外国人であるところ,上記のとおり,原告が難民であることは認められるものの,原告が難民であることは,原告が退去強制対象者に該当するか否かという点に係る特別審理官の判定に対する異議の申出に理由がない旨の本件裁決の違法事由であるということはできず,また,他に本件裁決に瑕疵があることをうかがわせる証拠もないことなども勘案すれば,本件裁決は適法にされたものと認められる。
4.争点④本件退令発付処分の適法性
(1)判断基準
主任審査官は,法務大臣等から異議の申出に理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは,速やかに当該外国人に対し,その旨を知らせるとともに,退去強制令書を発付しなければならないところ(入管法49条6項),難民条約1条の規定又は難民議定書1条の規定により難民条約の適用を受ける難民は,我が国の利益又は公安を著しく害すると認められる場合を除き,いかなる方法によっても,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならず(入管法53条3項,難民条約33条1項),難民と認められない者であっても,その者に対する拷問が行われるおそれがあると信じるに足りる実質的な根拠のある国へ送還してはならない。したがって,当該外国人が難民であるにもかかわらず,その者を,これを迫害するおそれのある国に向けて送還することとなる退去強制令書発付処分は違法であるというべきである。
(2)判断基準へのあてはめ
原告は難民であるということができるから,原告を,これを迫害するおそれのあるミャンマーに向けて送還することとなる本件退令発付処分は違法であるというべきであり,取消しを免れない。

<コメント>
本判決の主たる争点は,Xの難民該当性の有無である。
入管法に定める「難民」の意義については,これまでの裁判例においても述べられているところであり,本判決もこれらの裁判例とおおむね同様の解釈に立っているようである。
また,難民該当性の有無は事実認定の問題であり,本判決は,原告が難民に該当する旨を判断したものである。
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