有価証券偽造の罪で逮捕されてしまった場合には、どのように対応したら良いでしょうか。有価証券偽造の罪について、刑法では以下のように規定されています。
刑法
(有価証券偽造等)
第162条 行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
2 行使の目的で、有価証券に虚偽の記入をした者も、前項と同様とする。
(偽造有価証券行使等)
第163条 偽造若しくは変造の有価証券又は虚偽の記入がある有価証券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
162条と1項は、有価将証券偽造罪の規定です。有価証券とは、財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使につき、その証券の占有を必要とするものをいいます。その証券が取引上流通性を有すると否とを問いません。有価証券にあたるものとしては、乗車券、定期券、宝くじ、郵便為替証券等があります。有価証券にあたらないものとしては、切手、無記名定期預金証書、郵便貯金通帳、ゴルフクラブの入会保証金預託証書があります。
行為は、行使の目的で有価証券を偽造し、又は変造することです。偽造とは、作成権限のない者が、他人の名義を冒用して有価証券を作成することをいいます。形式・外観において一般人が真正な有価証券と誤信する程度のものであることを要します。代理権代表権逸脱の場合には偽造となります。これに対して代理権代表権の濫用の場合は偽造とはならず背任の問題となります。変造とは、権限を有しない者が真正に成立した他人名義の有価証券の日本質的部分に変更を加えることをいいます。一般人が真正なものとして誤信する程度の外観・形式を備えていることを要します。変造は、その変更を加えることによって、有価証券の本質的部分に変動を生じさせないことを要します。したがって、本質的部分に変動が生じ、有価証券の同一性が失われたときは偽造となります。手形小切手の券面金額の改ざん、振出日付の改ざんはいずれも変造です。
162条2項は、有価証券虚偽記入罪の規定です。客体は有価証券で、行為は、虚偽の記入をすることです。
163条は偽造有価証券行使等罪の規定です。客体は、偽造若しくは変造の有価証券又は虚偽の記入がある有価証券です。行為は、行使、交付、輸入です。行使とは、偽造・変造または虚偽の記入をした有価証券を真正または内容の真実なものとして使用することをいいます。たとえば、信用を確保するために偽造小切手を真正なものとして第三者に見せる行為は、偽造小切手を真正の小切手として使用する行為にあたります。有価証券が偽造であることを知っている者に対し、そのことを気づかず真正を装って呈示する等の行為をした場合は行使の実行行為は完了するが、法益侵害の結果を生じないので未遂にとどまります。交付とは、情を知らない他人に偽造・変造または虚偽の記入をした有価証券であることの情を明かして、または情を知っている他人にこれを与えることをいいます。輸入とは、国外から国内に搬入することをいいます。
以上、有価証券偽造の罪について説明をしてきましたが、有価証券に対する罪で逮捕されてしまった場合、どのような弁護活動が有効でしょうか。この点、有価証券偽造の罪の保護法益は、有価証券に対する公衆の信用であると解されています。そうすると、個人的法益ではないので、示談というのはあまり有効ではないと解されます。そこで、贖罪や反省を示すために贖罪寄付という方法が考えられます。贖罪寄付の効果を過大に期待するのは禁物ですが、贖罪寄付をしたという事実は有利な事情にはなると考えられます。また、保護法益が個人的法益ではないにしても、有価証券偽造の罪で名義人や相手方等に損害を与えてしまっているような場合には名義人や相手方等と示談することも有効であると考えられます。いずいれにしても専門的な判断が必要になりますので、有価証券偽造の罪で逮捕されてしまった場合には、できるだけ早く弁護士に相談・依頼されることをお勧めします。
なお、否認している場合には、取調べ対応が特に重要になり、黙秘権を行使する等自白を取られないことが重要ですので、この場合もできるだけ早く弁護士に依頼することをお勧めします。
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