【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例 東京地裁平成22年1月22日

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
日本に不法入国したペルー共和国の国籍を有する夫婦及び日本で出生した同夫婦の未成年の子らのうち,裁決時14歳であり,その後脳腫瘍が発見された長男についてされた在留特別許可をしないという判断は裁量権の範囲を逸脱したものであるとして,長男に対する裁決及び退去強制令書発付処分が取り消された事例です。

<事案の概要>
本件は,東京入国管理局横浜支局入国審査官からそれぞれ入管法24条1号(不法入国)に該当する旨の認定を受け,次いで,東京入管横浜支局特別審理官からそれぞれ上記認定に誤りはない旨の判定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた東京入国管理局長から,それぞれ入管法48条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受けたペルーの国籍を有する外国人の男性である第一事件原告(原告父)及び同外国人の女性である第二事件原告(原告母),並びに東京入管横浜支局入国審査官からそれぞれ入管法24条7号(不法残留)に該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨の認定を受け,次いで,東京入管横浜支局特別審理官から,それぞれ上記認定に誤りはない旨の判定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた東京入管局長から,それぞれ入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受けたペルー国籍を有する外国人の男性である第三事件原告(原告長男)及び同外国人の女性である第四事件原告(原告長女)が,東京入管横浜支局主任審査官からそれぞれ退去強制令書発付処分を受けたため,上記各裁決及び上記各退去強制令書発付処分の取消しを求めた事案である。

<本件の争点>
①本件各裁決の適法性
②本件各退令処分の適法性

<本件判決の内容>
1.争点①本件各裁決の適法性について
(1)判断基準
  外国人の出入国管理は,国内の治安と善良な風俗の維持,保健,衛生の確保,外交関係の安定,労働市場の安定等,種々の国益の保持を目的として行われるものであって,このような国益の保持の判断については,広く情報を収集し,時宜に応じた専門的又は政策的考慮を行うことが必要であり,時には高度な政治的判断を要することもあり,特に,既に退去強制されるべき地位にある者に対してされる在留特別許可の許否の判断に当たっては,このような考慮が必要であることを総合勘案すると,上記在留特別許可をするか否かの判断は,法務大臣の広範な裁量にゆだねられていると解すべきである。そして,以上のことは,法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長についても同様に当てはまるところというべきである。
  そして,上記のような在留特別許可をするか否かの法務大臣等の裁量権の内容,性質等にかんがみると,在留特別許可をしないとの法務大臣等の判断は,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により全く事実の基礎を欠く場合や,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り,裁量権を逸脱し,又は濫用したものとして違法になるものと解される。
(2)判断基準へのあてはめ
  原告父母は,いずれもペルーにおいて偽造旅券を入手し,原告父は日系人,原告母は日系人の妻とそれぞれ偽って不法入国をし,以後,いずれも16年以上もの長期間にわたって不法在留をしてきたこと,原告父母は,その間,不法就労をしていること,原告父は日系人,原告母は日系人の妻になりすまして在留資格変更許可を受けて本邦に在留しようと考え,原告父は,現に在留資格変更許可を受け,その後,在留期間更新許可を受けたものであり,原告母は,稼働先を得るために偽造の外国人登録証明書を行使し,実際に身分を偽って稼働していたこと,原告母は,入管法違反及び偽造有印公文書行使の罪により,懲役3年,5年間執行猶予の有罪判決を受けていることからすると,その入国及び在留の状況は,相当に悪質なものであるといわざるを得ない。なお,本件各裁決後の事情であるが,原告母は,執行猶予期間中に無免許運転を行って罰金刑に処せられており,遵法精神に問題があることもうかがわれる。これらの事情は,在留特別許可をするかどうかの判断に当たって,重大な消極的要素として考慮されるべき事情である。そして,原告父母は,いずれも本国であるペルーで出生して成育し,ペルー国内で生活を営んできたものであって,来日するまで我が国とは何らのかかわりもなかった者であり,稼働能力を有する成人であって,ペルーには,原告父母の親や兄弟が居住しており,上記親族らの援助を期待することができることからすると,原告父母がペルーに帰国して再び生活を始めることには,ある程度の苦労が伴うであろうことはうかがわれるものの,原告父母をペルーへ退去強制するとした東京入管局長の判断が,裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものであるということはできない。
  原告長女がペルーへ退去強制された場合に,当初は言語,学習,生活習慣等の面で現地での生活に順応することに相当の困難が生ずるであろうものの,原告長女が可塑性に富む年齢であること,両親である原告父母はスペイン語に不自由はなく,ペルーの生活習慣を理解しており,原告長女の保護及び監督をし,その生活に対する配慮をし得ること,ペルーには原告父母の親や親族らが生活しており,その親族らからの協力も受け得ること,原告長女も日常会話程度のスペイン語を話すことができること等を総合考慮すると,原告長女も,時間の経過とともにペルーにおける生活環境に慣れ親しむことは十分に可能であると考えられる。そうすると,原告長女がペルーに帰国した場合に,しばらくの間は心理的及び物理的に相当な負担を負うとしても,両親である原告父母が共に帰国するのであれば,原告長女をペルーへ退去強制するとした東京入管局長の判断が,裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものであるということはできない。
原告長男については,本邦への定着性は非常に強く,ペルーに帰国した場合に被る不利益の内容は相当に大きいというべきであり,また,その健康及び生命の維持という人道的配慮から,特別に在留を認めるか否かについて特に慎重な判断が求められていたというべきである。そして,東京入管局長が,本件裁決(長男)の当時,原告長男の病状を正確に把握し,これを正当に評価していたのであれば,少なくともその正確な診断と適切な治療を受けるまでの間は,人道的配慮からも在留を特別に認める判断をすべきであったというべきであり,また,法務省入国管理局が定める「在留特別許可に係るガイドライン」においても,「難病・疾病等により本邦での治療を必要とする場合」を在留特別許可の許否判断に係る積極的考慮要素として定めていることからすれば,原告長男の在留を特別に認める判断がされた可能性が高かったというべきである。したがって,原告長男に対し在留特別許可をしないという判断は,本来,考慮すべき事項を考慮せずにされたものといわざるを得ず,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があることにより全く事実の基礎を欠き,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであって,東京入管局長の裁量権が広範なものであることを考慮しても,その裁量権の範囲を逸脱してされたものといわざるを得ない。
2.争点②本件各退令処分の適法性について
 本件各退令処分(父),同(母)及び同(長女)については,他に違法な点は見当たらないので,いずれも適法であるというべきである。他方,本件裁決(長男)が違法であることは前記のとおりであるから,これを前提とする本件退令処分(長男)も違法であり,取消しを免れないというべきである。

<コメント>
本判決は,父,母及び裁決時11歳であった長女の各請求を棄却したが,裁決時14歳であった長男の請求を認容し,同人に対してされた裁決及び退去強制令書発付処分を取り消したものである。
長女については,裁決時11歳と幼く,環境の変化に対する順応性や可塑性を十分に有していることなどから,時間の経過とともにペルーにおける生活環境に慣れ親しむことは十分に可能であるとして,裁量権の逸脱又は濫用はないと判断した。一方,長男については,裁決時14歳であり,中学生であったことに加え,裁決時に脳腫瘍に罹患していたという事情を考慮して,在留特別許可をしなかった判断に裁量権の範囲を逸脱した違法があると判断した。
 本判決は,脳腫瘍が発見されたのは,裁決の約10箇月後であるものの,長男の脳腫瘍は,良性であるにもかかわらず,平成21年4月の時点で最大約3cmに及ぶ比較的大きなもので,既に右頸静脈孔から右小脳橋角部へと伸展していたこと,平成20年9月ころには症状が現れていたことなどに照らせば,同年3月の裁決の時点で,既に一定程度の大きさの腫瘍として存在していたものと推認することができるとして,脳腫瘍を裁決の当時の事情として考慮し,違法性の判断基準について一般に判例が採用する処分時説を前提としつつ,処分後の事実から処分時に存在した事実を推認するという手法を採ったものということができる。
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