今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
イラン国籍を有する外国人につき,在留特別許可をしない判断には裁量権の逸脱があったとして,入国管理局長の裁決及び入国管理局主任審査官の退去強制令書発布処分が取り消された事例です。
<事案の概要>
X1はイラン国籍を有する女性であり,X2はその実子(長女)である。Xらは,平成16年在留資格短期滞在により日本に入国し,平成17年3月東京入国管理局長から在留期間更新不許可処分を受けた後も,本邦に不法残留した。Xらは,平成20年2月,入管法47条3項及び48条8項に基づき,同法24条4号ロ(不法残留)に該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨の認定及び同認定は誤りがない旨の判定を受け,同法49条3項に基づき,同条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決を受け,同条6項に基づき,東京入国管理局主任審査官から,退去強制令書の発付処分を受けた。
そこで,Xらは,本件各裁決は裁量権の範囲の逸脱又は濫用により違法である等として,本件各裁決及び本件各退令処分の取消しを求めた。一審判決は,これをいずれも棄却したため,Xらが控訴した。
<本件の争点>
①本件各裁決の適法性
②本件各退令処分の適法性
<東京地裁判決の内容>:Xらの負け
1.本件各裁決の適法性
(1)判断基準
入管法五〇条一項四号に基づき在留特別許可をするか否かの判断は,法務大臣等の極めて広範な裁量にゆだねられており,その裁量権の範囲は,在留期間更新許可の場合よりも更に広範であると解するのが相当であって,法務大臣等は,上述した外国人の出入国管理の目的である国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の国益の保持の見地に立って,当該外国人の在留の状況,特別に在留を求める理由の当否のみならず,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲等の諸般の事情を総合的に勘案してその許否を判断する裁量を与えられているものと解される。
したがって,同号に基づき在留特別許可をするか否かについての法務大臣等の判断が違法となるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合に限られるものというべきである。
(2)判断基準へのあてはめ
ア 原告母について
日本における在留状況等について,本件の不法就労は,在留資格制度を定めた入管法の根幹を害する重大な違反であって,この点において,原告母の在留状況は決して良好なものとはいえない。
本国における生活に係る事情について,原告母が一人で又は原告子とともにイランに帰国しても,直ちに本国での生活に著しい支障が生ずるとは認め難い。
日本における生活に係る事情について,原告母と乙山との婚姻の届出がされてからわずか三週間余りしか経過しておらず,かつ,いまだ同居には至っていなかったのであるから,それ以前に原告母と乙山との間に一定期間の交際が先行していたとしても,同各裁決の時点で,原告母と乙山との間に実質的な婚姻関係の実体が形成されていたとは認め難く,仮に,実質的な婚姻関係の実体を形成しようとする意思があったとしても,客観的にその婚姻関係が安定かつ成熟したものであったとは認め難い。
したがって,原告母の乙山との婚姻の事実を他の諸事情とともに併せ考慮したとしても,なお,原告母及びその子である原告子に在留特別許可を付与しないとした本件各裁決の判断が,全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえないというべきである。
イ 原告子について
日本における在留状況等については,適法に在留したのは短期滞在の在留資格を三回の在留期間更新でつないだ約7か月の期間にとどまる。
本国における生活に係る事情については,原告子がイランに帰国した場合に,言語・文化・慣習等の面で,本国の社会に適合することが著しく困難な状態にあったとまでいうことはできない。また,原告子は,養父母であるC及び甲野から同原告に対する扶養義務の履行としての経済的・社会的な援助を受けることができるので,原告子が原告母とともにイランに帰国しても,直ちに本国での生活に著しい支障が生ずるとまでは認め難い。
したがって,本件養子縁組の成立の事実を考慮しても,なお,原告子及びその実母である原告母に在留特別許可を付与しないとした本件各裁決の判断が,全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くということが明らかであるとはいえないものといわざるを得ない。
ウ 結論
以上によれば,原告らに在留特別許可を付与しないとした本件各裁決における東京入国管理局長の判断が,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたものということはできず,本件各裁決は,取り消すべき違法はなく,適法であるというべきである。
2 本件各退令処分の適法性
法務大臣等は,入管法四九条一項に基づく異議の申出があったときは,異議の申出は理由があるか否かについての裁決をして,その結果を主任審査官に通知しなければならず(同条三項),主任審査官は,法務大臣等から異議の申出は理由がない旨の裁決をした旨の通知を受けたときは,当該容疑者に対し,速やかにその旨を知らせるとともに,入管法五一条の規定による退去強制令書を発付しなければならない(同法四九条六項)。
したがって,東京入管主任審査官は,東京入国管理局長から適法な本件各裁決の通知を受けた以上,入管法上,これに従って退去強制令書を発付するほかなく,これを発付するか否かについて裁量を有するものではないから,本件各退令処分は適法である。
<東京高裁判決の内容>母は負け,子は勝ち,
とりわけ本件養子縁組の存在及び控訴人子の生活実態,さらには帰国させた場合に予想される困難な状況等を考慮すれば,人道的見地からしても,控訴人子については在留特別許可を認めるのが相当というべきである。
そして,控訴人子に在留特別許可を認めたとしても,外国人の出入国管理の目的である国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の国益の保持の見地からして,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲等の諸般の事情にもとることはないと解される。
以上によれば,本件養子縁組を考慮することなく控訴人子に対する在留特別許可を認めなかった本件子裁決は,事実の基礎を欠くものであり,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱したものと評価せざるを得ないものである。
よって,本件子裁決は違法である。
したがって,本件子裁決は違法であるから,東京入国管理局主任審査官が控訴人子に対してした退去強制令書発付処分は違法である。
<コメント>
本件では養子縁組をし,養親子としての生活実態があることが大きなプラスの考慮要素となった。
入管法上の在留特別許可などの適否に関する判断枠組みは,法務大臣の裁量権の行使としてされることを前提として,「その判断の基礎とされた重要な事項に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し,それが認められる場合に限り,右判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法であるとすることができる」というものである。
在留特別許可が法務大臣の広範な裁量権によるものであることから,裁量権の範囲を逸脱・濫用したものと評価されるものは少なく,退去強制令書発付処分取消等請求事件は,棄却されるものが多い。しかし,本件は,不法残留のイラン人小学生に養親がおり,その生活実態もあることが在留特別許可をすべき積極要素とすべきものとした点において事例的意義を有する。
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