【在留特別許可の弁護士】在留特別許可に関する裁判例 東京地裁平成22年1月29日

今日は,在留特別許可に関する裁判例をご紹介いたします。
ミャンマーの国籍を有する夫婦に対してされた難民の認定をしない処分が違法とされ,そのことから退去強制令書発付処分及び入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分が違法又は無効とされた事例です。

<事案の概要>
ミャンマー国籍を有する外国人の男性である原告父は平成4年に他人名義の旅券を利用し,ミャンマー国籍を有する外国人の女性である原告母は平成5年に短期滞在の上陸許可を受け,それぞれ日本に入国した。原告父及び原告母は,その後日本で知り合い,婚姻し,平成12年に原告子が出生したが,平成18年6月に入管法違反容疑で逮捕された。原告父及び原告母は,難民認定申請をしたが,同年8月,法務大臣から難民不認定処分を受け,東京入国管理局長から入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可をしない旨の処分を受けた。また,原告父は,同月,異議の申出には理由がない旨の裁決及び退去強制令書発付処分を受け,原告母及び原告子は,平成19年11月,いずれも異議の申出には理由がない旨の裁決及び退令処分を受けた。そこで,原告らは,上記各処分の取消し又は無効確認を求めた。

<本件の争点>
①原告父及び原告母に対する難民不認定処分
②原告父及び原告母に対する在留特別許可の不許可処分
③原告父及び原告母に対する異議の申出に理由がない旨の裁決
④原告子に対する異議の申出に理由がない旨の裁決
⑤原告らに対する退令処分

<本件判決の内容>
1.争点①X1及びX2に対する難民不認定処分
(1)判断基準
入管法にいう「難民」とは,入管法2条3号の2,難民条約1条A(2)及び難民議定書1条2を合わせ読むと,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないものをいうこととなる。そして,上記の「迫害」とは,通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧を意味するものと解するのが相当であり,また,上記にいう「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要であると解するのが相当である。
(2)判断基準へのあてはめ
原告母は,ミャンマーを出国する以前から,デモに参加するなどの反政府活動をし,そのために1度は身柄を拘束され,今後政治活動を行わないという内容の誓約書に署名するなどしていることから,反政府活動を行う人物であるとしてミャンマー政府に個別に把握されている可能性がある。さらに,原告母は,日本上陸後も,ミャンマー人の民主活動家であるA経営のパガンで働きながら,同人の活動を手伝い,BWU日本支部の結成に関与し,また,DFB日本支部に加入するなどし,以後,出産及び育児等のため一時的に活動をしていなかった時期を除けば,BWU日本支部のメンバーとしてデモや講演会活動をするなど,一貫して民主化運動を行っていたものである。そして,原告母の写真及び氏名は,DFB日本支部のホームページ上にも掲載され,原告母がデモに参加している写真等も同ホームページに掲載されているのであるから,このような事情は,ミャンマー政府においても十分把握することが可能な状況にあったということができる。
原告父は,ミャンマーを出国する以前から,デモに参加するなどの反政府活動をし,そのために警察から取調べを受けるなどしており,また,実名を記載した反政府的な内容の書面を配り,そのことが体制側の組織のメンバーに報告されるなどしていることから,反政府活動を行う人物であるとしてミャンマー政府に個別に把握されている可能性がある。さらに,原告父は,日本に上陸し,原告母と知り合った後は,原告母の活動を手伝い,また,DFB日本支部に加入し,その政治活動部門の副責任者として活動するなどしている上,原告父の写真及び氏名は,同日本支部のホームページ上にも掲載され,原告父がデモに参加している写真も同ホームページに掲載されているのであるから,このような事情は,ミャンマー政府においても十分把握することが可能な状況にあったということができる。
以上によれば,本件各不認定処分当時,原告父母は,いずれも,ミャンマー及び我が国において反政府活動をしていたことを理由として,ミャンマー政府から迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であると認めるのが相当である。
 よって,原告父母には難民該当性を認めることができるから,本件各不認定処分はいずれも違法であるというべきである。したがって,本件各不認定処分は,いずれも取消しを免れない。
2.争点②X1及びX2在留特別許可の不許可処分
 本件各不許可処分は,難民である原告父母について入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしないというものであり,その結果,原告父母を,これを迫害するおそれのあるミャンマーに送還することとなるものであるが,我が国が難民条約及び拷問等禁止条約を批准し,難民条約33条1項を前提に入管法53条3項が規定されていること,入管法上の難民の意義,性質等に照らせば,難民である外国人を,これを迫害するおそれのある国に向けて送還してはならないことは,入管法上明らかであるから,本件各不許可処分は,難民である原告父母について入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をせず,その結果,原告父母を,これを迫害するおそれのある国に向けて送還しようとする点において,入管法の根幹についての重大な過誤というべき瑕疵を有するものといわなければならない。
 そうすると,本件各不許可処分には,出入国管理行政の安定とその円滑な運営の要請を考慮してもなお,出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として,難民である原告父母について入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をせず,その結果,原告父母に迫害を受けるおそれのある国に送還されるという不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情があるというべきである。したがって,前記の過誤による瑕疵が明白なものでなくても,本件各不許可処分は当然無効と解するのが相当である。
以上によれば,本件各不許可処分は,いずれも無効であるというべきである。
3.争点③X1及びX2に対する異議の申出に理由がない旨の裁決
 原告父母は入管法61条の2の6第4項所定の難民認定申請をした在留資格未取得外国人であるところ,前示のとおり,原告父母が難民であることは認められるものの,原告父母が難民であることは,原告父母が退去強制対象者に該当するかどうかという点に係る特別審理官の判定に対する異議の申出に理由がない旨の本件裁決の違法事由であるということはできず,他に本件裁決(父母)における裁決固有の瑕疵(行政事件訴訟法10条2項参照)に係る主張はないから,結局,本件裁決(父母)はいずれも適法であるといわざるを得ない。
したがって,本件裁決(父母)の無効確認又は取消しを求める原告父母の請求は,いずれも理由がない。
4.争点④X3に対する異議の申出に理由がない旨の裁決
 原告子は,入管法24条7号所定の退去強制事由に該当するから,法律上当然に退去強制されるべき外国人に当たることが明らかである。しかしながら,前示のとおり,原告子の親権者である原告父母は,いずれも難民に該当するというべきであり,原告父母について,これを迫害するおそれのあるミャンマーに送還することは許されないところ,原告子は,本件裁決(子)時において,いまだ7歳,小学校1年生であった者であり,日本において出生し,原告父母の庇護の下,日本において養育されていたのであって,前記のとおり,原告父母の親族がミャンマーで生活していることを考慮しても,原告子のみを原告父母から引き離してミャンマーに送還することは,原告子の健全な生育を阻害するおそれがあり,子の福祉の観点からも,人道的な見地からも明らかに不相当であるというべきである。
 そうすると,本件裁決(子)は,原告父母が入管法上の難民に該当し,ミャンマーに送還することができないという当然に考慮すべき極めて重要な要素を一切考慮せずに行われたものといわざるを得ない。したがって,本件裁決(子)は,東京入管局長がその裁量権の範囲を逸脱してした違法な処分というべきである。
5.争点⑤Xらに対する退令処分
原告父母は難民であるということができるから,原告父母を,これを迫害するおそれのあるミャンマーへ向けて送還する本件退令処分(父母)は違法であるというべきであり,本件退令処分(母)については取消しを免れない。
 また,本件退令処分(父)については,その有効性が問題となるが,同処分は,原告父を迫害のおそれのあるミャンマーに送還することになるものであり,前記3(2)のとおり,入管法の根幹についての重大な過誤というべき瑕疵を有するものといわざるを得ない。したがって,その瑕疵が明白なものでなくとも,本件退令処分(父)は当然無効と解するのが相当である。
  本件裁決(子)が違法であることは前記のとおりであるから,これを前提とする本件退令処分(子)も違法であり,取り消されるべきものである。

<コメント>
本件の主な争点は,原告父及び原告母が難民にあたるかであり,本判決は,供述のほか,日本に滞在するミャンマーの活動家の証言に基づいて,詳細な事実を認定し,両名の難民該当性を肯定して難民不認定処分を取り消した上,子に対してされた裁決及び退令処分を取り消した事案である。
 平成16年の入管法の改正により,退去強制手続を経ずに難民認定手続の中で定住者の在留資格を付与することができるものとされた(入管法62条の2の2)ことを踏まえて,本判決は入管法50条1項の適用を除外した入管法61条の2の6第4項の趣旨を解釈し,難民認定申請をした在留資格未取得外国人については,難民認定手続の中で本邦への在留の許否が判断され,退去強制手続中の裁決においては,在留特別許可の許否が判断されることはなく,退去強制事由の有無のみが判断されるとした上,当該外国人が難民であることは,裁決の違法事由とはならないとしたものである。 
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